「赤ちゃんの舌が真っ白になっている」「頬の内側にミルクのかすのようなものがついている」――このような変化に気づくと、病気ではないかと心配になるお母さんも多いでしょう。
赤ちゃんの口の中にできる白い斑点の代表的な原因が、鵞口瘡(がこうそう)です。医学的には口腔カンジダ症と呼ばれ、カンジダという真菌、いわゆるカビの仲間が口の中で増えることで起こります。「カビが生えた」と聞くと驚くかもしれませんが、カンジダは人の口や皮膚、腸などにもともと存在することがある微生物です。鵞口瘡になったからといって、育て方や清潔の保ち方が悪かったということではありません。
健康な赤ちゃんにみられる鵞口瘡の多くは重い病気ではなく、適切に対応すれば改善します。ただし、授乳量が減っている場合や、何度も繰り返す場合には診察が必要です。
この記事のポイント
- 鵞口瘡は、カンジダという真菌による赤ちゃんの口腔内感染症です。
- 舌だけでなく、頬の内側、唇の裏、歯ぐき、上あごにも白い斑点がみられます。
- ミルクかすと異なり、軽くぬぐっても取れにくいことが特徴です。
- 元気で授乳できていれば、緊急性が高い病気であることは通常ありません。
- 痛みや哺乳不良、広がる白斑、繰り返す鵞口瘡がある場合は小児科を受診しましょう。
- 白い部分を無理にこすったり、市販薬や民間療法を自己判断で使用したりしないでください。
鵞口瘡(がこうそう)とは?
鵞口瘡は、カンジダ属という真菌が赤ちゃんの口の中で増殖して起こる感染症です。「口腔カンジダ症」または英語で「オーラルスラッシュ」とも呼ばれます。カンジダは特殊な病原体ではなく、健康な人の皮膚や口、消化管などにも存在することがある常在微生物です。しかし、赤ちゃんは口の中の細菌叢や免疫機能がまだ発達途中であるため、カンジダが一時的に増えやすい状態にあります。典型的には、舌や頬の内側などに、白いミルクかすやヨーグルトのような斑点が現れます。軽症では赤ちゃん自身に不快感がなく、健診や授乳中に偶然気づかれることもあります。
赤ちゃんの鵞口瘡はどのくらい多い?
鵞口瘡は、特に新生児から生後数か月までの乳児にみられやすい病気です。調査する地域や診断方法によって報告される頻度が異なるため、日本の健康な乳児における正確な発症率は明確ではありません。米国疾病予防管理センター(CDC)は、生後1か月未満の赤ちゃんを口腔カンジダ症のリスクが高い集団として挙げています。一方で、健康な正期産児にみられる一般的な鵞口瘡と、早産児や重症児に起こる侵襲性カンジダ症は別の病態です。元気で授乳できている赤ちゃんの鵞口瘡が、突然全身に広がることは通常ありません。侵襲性カンジダ症は、主に非常に小さく生まれた早産児、集中治療中の赤ちゃん、免疫機能に問題がある赤ちゃんなどで注意される病気です。
赤ちゃんが鵞口瘡になる原因
鵞口瘡は、赤ちゃんの口にカンジダが付着したことだけで起こるのではありません。口の中の環境や微生物のバランスが変化し、カンジダが増えやすくなることで発症します。
赤ちゃんの免疫機能が発達途中である
生まれたばかりの赤ちゃんは、免疫機能や口腔内の細菌叢がまだ十分に整っていません。そのため、大人では問題にならない程度のカンジダでも、一時的に増殖して鵞口瘡を起こすことがあります。
出産時や授乳時にカンジダが付着する
カンジダは母親の腟や皮膚に存在することがあり、出産時に産道を通る際や、その後の授乳、手指との接触などを通じて赤ちゃんの口に付着することがあります。ただし、カンジダが付着すること自体は珍しくありません。母親にカンジダがいたからといって、必ず赤ちゃんが鵞口瘡になるわけではありません。
抗菌薬を使用した
赤ちゃんが抗菌薬を服用すると、カンジダの増殖を抑えていた口腔内の細菌も減少し、カンジダが増えやすくなることがあります。授乳中のお母さんが抗菌薬を使用している場合も、母子の微生物環境に影響する可能性があります。
早産・低出生体重で生まれた
早産児や低出生体重児では、皮膚や粘膜のバリア機能、免疫機能が未熟であるため、カンジダが定着しやすい傾向があります。特に入院中の早産児では、単純な鵞口瘡だけでなく全身性のカンジダ感染症に注意が必要なことがあります。入院中の赤ちゃんについては、担当医の指示に従ってください。
哺乳びんやおしゃぶりなどにカンジダが残っている
哺乳びんの乳首、おしゃぶり、搾乳器の部品、口に入れるおもちゃなどにカンジダが残り、再び口の中に入ることがあります。ただし、鵞口瘡は単純に「消毒が足りなかったから起きた病気」ではありません。必要以上に自分を責める必要はありません。
鵞口瘡の症状
代表的な症状は、赤ちゃんの口の中に現れる白色から乳白色の斑点や膜です。
口の中に白い斑点がつく
白い斑点は、次のような場所に現れます。
- 舌の表面
- 頬の内側
- 唇の裏側
- 歯ぐき
- 上あご
- 口の奥
白い部分はミルクかすに似ていますが、軽くぬぐっただけでは取れにくいことが特徴です。無理にはがすと、下の粘膜が赤くなったり、少量出血したりすることがあります。
授乳を嫌がる・途中で泣く
軽い鵞口瘡では、赤ちゃんに目立った症状がないことも少なくありません。一方、口の中に痛みや違和感があると、次のような変化がみられることがあります。
- 母乳やミルクを飲み始めてもすぐに離す
- 授乳中に泣く
- いつもより飲む量が少ない
- 授乳時間が短くなった
- 機嫌が悪く、落ち着きにくい
カンジダ性のおむつかぶれを伴うことがある
鵞口瘡がある赤ちゃんでは、同じカンジダによるおむつかぶれを伴うことがあります。カンジダ性のおむつかぶれでは、肛門や陰部の周囲が鮮やかに赤くなり、その周囲に小さな赤いぶつぶつが散らばる「衛星病変」がみられることがあります。一般的なおむつかぶれと治療方法が異なるため、広がる赤みがある場合は医療機関に相談しましょう。
鵞口瘡とミルクかすの見分け方
赤ちゃんの舌が白くても、必ずしも鵞口瘡とは限りません。母乳やミルクを飲んだ後には、舌にミルクの成分が残って白く見えることがあります。
| 特徴 | 鵞口瘡 | ミルクかす |
|---|---|---|
| つきやすい場所 | 舌、頬の内側、唇の裏、歯ぐき、上あごなど | 主に舌の表面 |
| 軽くぬぐった場合 | 取れにくい | 比較的取れやすい |
| 下の粘膜 | 赤くただれていることがある | 通常は赤くならない |
| 授乳への影響 | 痛みがあると飲みが悪くなる | 通常は影響しない |
見分けるために白い部分を強くこする必要はありません。無理にこすると口の中を傷つけるため、取れにくい白斑が頬や上あごにもある場合は、小児科で確認してもらいましょう。
上あごや歯ぐきにある白い粒は別のもの?
生まれたばかりの赤ちゃんでは、上あごや歯ぐきに小さな真珠のような白い粒がみられることがあります。「上皮真珠」「エプスタイン真珠」などと呼ばれるもので、鵞口瘡とは異なります。上皮真珠は、白い膜が広がるのではなく、境界のはっきりした小さな粒としてみられます。通常は痛みがなく、自然に消えるため治療は必要ありません。
鵞口瘡の診断
鵞口瘡の多くは、小児科医が口の中を観察し、白い斑点の場所や広がり、授乳状況などを確認して診断します。典型的な鵞口瘡であれば、血液検査や画像検査は通常必要ありません。ただし、次のような場合には、白い部分を採取して顕微鏡で調べたり、真菌培養検査を行ったりすることがあります。
- 見た目だけでは診断が難しい
- 治療しても改善しない
- 何度も繰り返している
- 免疫機能の異常が疑われる
- 重い基礎疾患がある
赤ちゃんの鵞口瘡の治療
鵞口瘡の治療方針は、白斑の範囲、赤ちゃんの月齢、授乳への影響、基礎疾患の有無などによって異なります。
症状が軽い場合は経過観察になることもある
白い部分が狭い範囲だけにあり、赤ちゃんが元気で母乳やミルクを普段どおり飲めている場合は、医師が経過観察を選択することもあります。一方で、白斑が広がっている、口を痛がっている、授乳量が減っている、長引いている場合には、抗真菌薬による治療が検討されます。
抗真菌薬を口の中に使用する
鵞口瘡には、カンジダの増殖を抑える抗真菌薬を使用します。海外ではナイスタチンの液剤やミコナゾールの経口ゲルなどが用いられます。日本では、赤ちゃんの月齢や状態に応じて、アムホテリシンBのシロップ製剤やミコナゾールの経口ゲルなどが選択されることがあります。ただし、薬剤ごとに国内で承認されている効能・用量や、乳児への安全性が異なります。薬の種類、量、塗り方は、必ず処方した医師または薬剤師の指示に従ってください。見た目が良くなったからといって、自己判断で治療を中止すると再発することがあります。
ミコナゾール経口ゲル使用時の重要な注意
ミコナゾール経口ゲルは、外国において生後6か月未満の乳児が誤嚥し、窒息した症例が報告されています。また、日本では小児や乳幼児を対象とした有効性・安全性の臨床試験が行われていません。乳児に処方された場合は、喉の奥にまとめて入れたり、スプーンやシリンジで一気に流し込んだりせず、医師・薬剤師から説明された方法を厳守してください。
治りにくい場合は別の治療を検討する
適切に治療しても改善しない場合には、診断が正しいか、薬が病変部分に十分届いているか、哺乳びんやおしゃぶりなどから再付着していないかを確認します。難治性の場合や、免疫機能に問題がある場合には、培養検査を行ったうえで、内服の抗真菌薬などが検討されることがあります。全身作用のある抗真菌薬を、家庭の判断で使用することはできません。
自宅でできる対応方法
母乳やミルクは基本的に続けてよい
赤ちゃんが飲めている場合、鵞口瘡があることだけを理由に、母乳やミルクを中止する必要は通常ありません。ただし、痛そうにして飲めない、授乳量が明らかに減った、尿の回数が少なくなった場合は、脱水を防ぐため早めに小児科へ相談してください。
白い部分を無理にはがさない
ガーゼ、綿棒、歯ブラシなどで白い部分を強くこすらないでください。鵞口瘡の白苔は粘膜に付着しているため、無理にはがすと出血や痛みの原因になります。口の中を消毒液で拭いたり、塩、重曹、酢などを塗ったりすることも避けましょう。
手洗いを行う
授乳前後、薬を塗る前後、おむつ交換後には、石けんと流水で手を洗いましょう。特に薬を指で塗るよう指示された場合は、爪を短くし、清潔な手で行います。
哺乳びんやおしゃぶりを清潔にする
哺乳びんの乳首、おしゃぶり、搾乳器の母乳に触れる部品、口に入れるおもちゃは、使用後に洗浄し、製品の説明書に沿って消毒・乾燥させましょう。
- 哺乳びんの乳首やおしゃぶりを兄弟で共有しない
- 床に落ちたおしゃぶりを大人がなめて戻さない
- 洗浄後は湿ったままにせず、よく乾燥させる
- 劣化や傷がある乳首、おしゃぶりは交換する
毎回すべてを煮沸しなければ治らないわけではありません。消毒方法は、製品の耐熱温度やメーカーの説明を確認してください。
自己判断で市販薬や民間療法を使わない
大人用の口内炎薬、うがい薬、抗真菌クリームなどを、赤ちゃんの口に使用してはいけません。また、はちみつを口に塗る方法は避けてください。1歳未満の赤ちゃんには、乳児ボツリヌス症の危険があるため、はちみつを与えてはいけません。ヨーグルトや乳酸菌、ハーブなどについても、乳児の鵞口瘡を確実に治療できる根拠は十分ではありません。処方された治療の代わりにはなりません。
授乳中のお母さんにも治療が必要?
授乳中のお母さんに、次のような乳頭・乳房の症状がある場合は、赤ちゃんと一緒に相談してください。
- 乳頭が赤い、つやつやしている、皮がむけている
- 授乳中や授乳後に乳頭が強く痛む
- 乳房の奥に刺すような痛みを感じる
- 乳頭に亀裂やただれがある
母親と赤ちゃんの間でカンジダが行き来し、再発の原因になる可能性があるため、双方に症状がある場合は、必要に応じて親子を同時に治療します。ただし、授乳中の乳頭痛がすべてカンジダによるものとは限りません。赤ちゃんの吸着方法、乳頭の皮膚炎、細菌感染、血管の収縮などでも痛みが起こります。自己判断で抗真菌薬を塗り続けるのではなく、産婦人科、皮膚科、助産師、母乳外来などに相談しましょう。
小児科を受診する目安
赤ちゃんが元気で授乳できている場合、鵞口瘡は夜間に救急受診しなければならないことが多い病気ではありません。ただし、次のような場合は診療時間内に小児科へ相談しましょう。
- 頬の内側や上あごにも、取れにくい白斑がある
- 白い斑点が増えている、範囲が広がっている
- 授乳を嫌がる、飲む量が減った
- 口の中を痛がっているように見える
- カンジダ性と思われるおむつかぶれを伴っている
- 治療しても改善しない
- 治った後に何度も繰り返す
- 体重増加が悪い
- 早産児、低出生体重児、免疫機能に関わる基礎疾患がある
早めの受診が必要な症状
次の症状がある場合は、単純な鵞口瘡だけでは説明できない可能性があります。早めに医療機関へ連絡してください。
- 母乳やミルクをほとんど飲めない
- 半日近く尿が出ない、尿の回数が明らかに少ない
- ぐったりして反応が悪い
- 呼吸が苦しそう、顔色が悪い
- 繰り返し吐いている
- 生後3か月未満で38℃以上の発熱がある
特に生後3か月未満の発熱は、鵞口瘡の有無にかかわらず速やかな医学的評価が必要です。
鵞口瘡を繰り返すと免疫の病気?
生後1年未満の赤ちゃんでは、健康であっても鵞口瘡がみられることがあります。そのため、一度鵞口瘡になっただけで免疫不全症を心配する必要は通常ありません。ただし、次のような場合には、生まれつきの免疫機能の異常などが隠れていないか検討することがあります。
- 適切な治療を行っても鵞口瘡が治らない
- 治療をやめるとすぐに再発する
- 1歳以降も持続している
- 皮膚や爪のカンジダ症も繰り返す
- 肺炎、中耳炎、重い感染症を繰り返す
- 体重が増えない、成長が遅れている
- 家族に乳幼児期から重い感染症を繰り返した人がいる
このような特徴がなければ、一般的な乳児の鵞口瘡であることが大半です。不安がある場合は、症状の経過が分かる写真を撮って小児科で相談するとよいでしょう。
赤ちゃんの鵞口瘡についてよくある質問
鵞口瘡は赤ちゃんに痛みがありますか?
軽症では痛みがなく、普段どおり授乳できる赤ちゃんも少なくありません。口の中が赤くただれている場合や、白斑が広範囲にある場合は、痛みや違和感によって授乳を嫌がることがあります。
鵞口瘡は人にうつりますか?
カンジダは身近に存在する微生物であり、風邪のように咳やくしゃみで強く広がる感染症ではありません。ただし、乳頭、哺乳びんの乳首、おしゃぶり、口に入れるおもちゃなどを介して移動する可能性があります。
鵞口瘡があっても母乳を続けられますか?
赤ちゃんが飲めていれば、通常は母乳を続けられます。お母さんにも乳頭痛や発赤、亀裂などがある場合は、親子で診察を受けましょう。
鵞口瘡は自然に治りますか?
軽い鵞口瘡が自然に軽快することはあります。ただし、ミルクかすとの区別が難しいことや、痛みがあると授乳量が低下することがあるため、白斑が広がる、長引く、授乳に影響する場合は受診してください。
治療を始めると、どのくらいで治りますか?
適切な治療を行うと、数日で白斑が減り始めることがありますが、改善までの期間は範囲や使用する薬によって異なります。見た目が良くなっても、医師から指示された期間は治療を続けてください。
鵞口瘡で保育園を休む必要がありますか?
赤ちゃんの全身状態がよく、発熱がなく、普段どおり授乳や食事ができていれば、鵞口瘡だけを理由に登園停止となることは通常ありません。ただし、園ごとの方針があるため、必要に応じて保育園へ確認してください。
まとめ|赤ちゃんが元気で飲めているかを確認しましょう
鵞口瘡は、赤ちゃんの口の中でカンジダが増えることによって起こる口腔カンジダ症です。舌だけでなく、頬の内側や唇の裏、上あごなどに、軽くぬぐっても取れにくい白い斑点がみられます。健康な赤ちゃんにみられる鵞口瘡の多くは重い病気ではありません。鵞口瘡になったからといって、お母さんの育て方や衛生管理が悪かったわけでもありません。一番大切なのは、白い斑点の見た目だけでなく、赤ちゃんが元気か、母乳やミルクを飲めているか、尿が普段どおり出ているかを確認することです。白斑が広がる、授乳を嫌がる、治療しても改善しない、何度も繰り返す場合は、小児科に相談しましょう。白い部分を無理にはがしたり、大人用の薬や民間療法を試したりせず、赤ちゃんの月齢に合った安全な治療を受けることが大切です。
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。赤ちゃんの状態に不安がある場合は、小児科などの医療機関へご相談ください。
参考文献
- 世界保健機関(WHO):Candidiasis(yeast infection)
- 米国疾病予防管理センター(CDC):Candidiasis Basics
- Infectious Diseases Society of America:Clinical Practice Guideline for the Management of Candidiasis
- American Academy of Pediatrics:Thrush
- American Academy of Pediatrics:Thrush(Candidiasis)―Child Care and Schools
- 日本小児感染症学会:原発性免疫不全症の最新知見
