「妊娠中にワクチンを打って、赤ちゃんに影響はないの?」「本当にRSウイルスの重症化を防げるの?」と不安に感じる妊婦さんも多いと思います。
アブリスボ®は、妊婦さんが接種することで、お母さんの体内で作られたRSウイルスに対する抗体を胎盤を通じて赤ちゃんに届け、生まれて間もない時期のRSウイルス感染症から赤ちゃんを守る「母子免疫ワクチン」です。
日本では2024年に承認され、2026年4月から妊婦を対象とした定期接種になりました。特にRSウイルス感染症が重症化しやすい生後数か月を、出生時から守ることを目的としています。
この記事のポイント
- 2026年度から、アブリスボが妊婦の定期接種になりました。
- 定期接種の対象は妊娠28週0日~36週6日で、1回筋肉注射します。
- 妊婦さんが作った抗体が胎盤を通って赤ちゃんへ移行します。
- 生後90日までの重症RSウイルス下気道疾患を約8割、生後180日までを約7割減らす効果が示されています。
- RSウイルスによる入院も、生後90日までで約68%、生後180日までで約57%減少しました。
- 主な副反応は注射部位の痛み、頭痛、筋肉痛などです。
- 1.アブリスボとはどんなワクチン?
- 2.なぜ妊婦さんがワクチンを打つと赤ちゃんを守れるの?
- 3.そもそもRSウイルスはなぜ赤ちゃんに注意が必要?
- 4.アブリスボは2026年から定期接種になりました
- 5.アブリスボの効果は?
- 6.RSウイルスによる入院をどのくらい予防できる?
- 7.アブリスボの効果はいつまで続く?
- 8.アブリスボの副反応は?
- 9.「妊娠中に打って早産にならない?」と心配な方へ
- 10.妊娠高血圧症候群との関係は?
- 11.妊婦が接種すると赤ちゃんがRSウイルスに感染することはない?
- 12.アブリスボを接種してもRSウイルス対策は必要?
- 13.アブリスボとベイフォータス・シナジスの違いは?
- 14.アブリスボを接種できない・注意が必要な場合
- 15.よくある質問
- 16.まとめ|アブリスボは「生まれてすぐの赤ちゃんを守る」ためのワクチン
- 参考文献
1.アブリスボとはどんなワクチン?
アブリスボ(ABRYSVO®)は、ファイザー社が開発したRSウイルス(RSV)に対する組換えワクチンです。RSウイルスには主にRSV-AとRSV-Bという2つのタイプがあります。アブリスボには、それぞれのRSウイルスが人の細胞に侵入するときに重要な役割をする「融合前Fタンパク質(prefusion F protein)」がワクチン抗原として含まれています。このFタンパク質を免疫に覚えさせることで、RSウイルスを中和する抗体を作らせます。生きたRSウイルスを含む生ワクチンではありません。そのため、アブリスボを接種したことによって妊婦さんや赤ちゃんがRSウイルス感染症になることはありません。
2.なぜ妊婦さんがワクチンを打つと赤ちゃんを守れるの?
生まれたばかりの赤ちゃんは免疫機能がまだ未熟で、自分自身で十分な量の抗体を作ることができません。一方、妊娠後半になると、お母さんの血液中にあるIgG抗体が胎盤を通って赤ちゃんへ移動します。アブリスボを妊婦さんに接種すると、お母さんの体内でRSウイルスに対する中和抗体が作られ、その抗体が胎盤を通じて胎児へ移行します。
- 妊婦さんにアブリスボを接種する
- お母さんの免疫がRSウイルスに対する抗体を作る
- 抗体が胎盤を通って赤ちゃんへ移行する
- 赤ちゃんは出生時からRSウイルスに対する抗体を持つことができる
つまり、赤ちゃん自身にワクチンを打つのではなく、妊婦さんの免疫を利用して、生まれる前から赤ちゃんに「抗体」を届ける仕組みです。厚生労働省によると、アブリスボのワクチン成分そのものが胎児へ移行するのではなく、母体で作られた抗体が胎盤を通じて移行するとされています。
3.そもそもRSウイルスはなぜ赤ちゃんに注意が必要?
RSウイルスは非常にありふれた呼吸器ウイルスで、2歳までにほぼすべての子どもが少なくとも1度は感染するとされています。多くの場合は鼻水、咳、発熱などの風邪症状で治ります。しかし、月齢の低い乳児では細い気管支に炎症を起こし、細気管支炎や肺炎になることがあります。特に注意が必要なのは、生後6か月未満、とくに生後1~3か月の赤ちゃんです。また、早産児、先天性心疾患や慢性肺疾患がある赤ちゃん、免疫機能に問題がある赤ちゃんでは重症化リスクが高くなります。ただし、RSウイルスで入院する赤ちゃんのすべてに基礎疾患があるわけではありません。それまで健康だった赤ちゃんでも、RSウイルス感染症が重症化して入院することがあります。厚生労働省の資料では、2010年代の日本で年間12万~18万人の2歳未満児がRSウイルス感染症と診断され、年間3万~5万人が入院を必要としたとされています。
4.アブリスボは2026年から定期接種になりました
日本では、妊婦へのアブリスボ接種が2026年4月から予防接種法に基づく定期接種となりました。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| ワクチン | アブリスボ®筋注用 |
| 目的 | 出生後の新生児・乳児のRSウイルス下気道疾患を予防 |
| 定期接種の対象 | 妊娠28週0日~36週6日 |
| 接種回数 | 1回 |
| 接種方法 | 0.5mLを筋肉内注射 |
ここで注意したいのが、「薬として接種できる期間」と「定期接種の対象期間」が少し違うことです。アブリスボは医薬品としては妊娠24~36週で接種可能ですが、2026年度の定期接種としての対象は妊娠28週0日~36週6日です。
出産直前の接種でも大丈夫?
接種してから赤ちゃんへ十分な抗体が移行するまでには時間が必要です。アブリスボは接種後14日以内に出生した赤ちゃんでの有効性が確立していません。帝王切開や計画分娩などで早めの出産予定がある場合や、早産の可能性を指摘されている場合は、接種時期を産婦人科医と相談してください。
5.アブリスボの効果は?
アブリスボの有効性を調べた代表的な研究が、約7,400人の妊婦が参加した国際共同第3相試験「MATISSE試験」です。この試験では、妊娠24~36週の妊婦にアブリスボまたはプラセボを接種し、生まれた赤ちゃんのRSウイルス感染による下気道疾患を比較しました。
| 赤ちゃんのRSウイルス関連疾患 | 生後0~90日 | 生後0~180日 |
|---|---|---|
| 医療受診が必要なRSV下気道疾患 | 57.1%減少 | 51.3%減少 |
| 重症RSV下気道疾患 | 81.8%減少 | 69.4%減少 |
| RSVによる入院 | 67.7%減少 | 56.8%減少 |
厚生労働省も一般向けに、生後90日までの重症RSウイルス下気道感染症を約8割、生後180日までを約7割予防する効果があると説明しています。
6.RSウイルスによる入院をどのくらい予防できる?
小さな赤ちゃんを持つご家族にとって、特に気になるのが「RSウイルスで入院する可能性をどのくらい減らせるのか」という点でしょう。MATISSE試験では、RSウイルス感染症による入院は、生後90日まででワクチン群10例、プラセボ群31例でした。これは、アブリスボによってRSウイルスによる入院リスクが67.7%低下したことを意味します。生後180日まででは、ワクチン群19例、プラセボ群44例で、入院リスクは56.8%低下しました。つまりアブリスボは「RSウイルスに絶対に感染しなくなるワクチン」ではありません。むしろ、月齢が低く重症化しやすい時期の細気管支炎・肺炎・呼吸不全・入院などを減らすためのワクチンと考えるとわかりやすいでしょう。
7.アブリスボの効果はいつまで続く?
臨床試験では、出生後6か月までの予防効果が評価されています。お母さんから赤ちゃんへ移行した抗体は時間とともに少しずつ減っていくため、効果が永久に続くわけではありません。しかしRSウイルス感染症は、とくに生後数か月の赤ちゃんで重症化しやすいため、最も弱い時期を出生直後から守ることに母子免疫ワクチンの大きな意味があります。
8.アブリスボの副反応は?
ワクチン接種後には、ほかのワクチンと同じように副反応が起こることがあります。主な副反応には、次のようなものがあります。
- 注射した部分の痛み
- 腫れ・赤み
- 頭痛
- 筋肉痛
- だるさ
- 吐き気
国際臨床試験では、妊婦で比較的よくみられた症状として、注射部位の痛み約41%、頭痛約31%、筋肉痛約27%、吐き気約20%が報告されています。多くは一時的な症状ですが、強い症状が続く場合は接種した医療機関へ相談してください。
まれですが注意が必要な副反応
非常にまれですが、ワクチンではアナフィラキシーなどの重いアレルギー反応が起こる可能性があります。また、2026年7月には、アブリスボの添付文書の「重大な副反応」にギラン・バレー症候群が追記されました。ただし、この注意喚起の根拠となった市販後調査や疫学研究は主に高齢者を対象としたものであり、妊婦でギラン・バレー症候群のリスクが増えることが確認されたという意味ではありません。妊婦については現在も安全性の調査が続けられています。接種後に、手足の力が入りにくい、しびれが広がる、歩きにくいなどの症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください。
9.「妊娠中に打って早産にならない?」と心配な方へ
妊娠中に接種するワクチンであるため、「赤ちゃんが早く生まれたりしないの?」と心配になるのは自然なことです。MATISSE試験では、早産はアブリスボ群で5.7%、プラセボ群で4.7%にみられました。数字だけを見るとワクチン群でやや多い結果でしたが、試験全体では統計学的に明確な差とはならず、アブリスボが早産の原因であることは証明されていません。一方、この点については各国の規制当局が継続して安全性を監視しています。米国では潜在的な早産リスクを考慮して妊娠32~36週での接種とされています。一方、日本では専門家による検討を経て、2026年度の定期接種は妊娠28週0日~36週6日とされています。厚生労働省は現時点で、アブリスボによって早産リスクが明確に上昇することを示す報告は確認されていないとしています。切迫早産、過去の早産歴、計画的な早期分娩などがある場合は、接種するかどうかだけではなく、接種する時期について産婦人科医と相談するとよいでしょう。
10.妊娠高血圧症候群との関係は?
海外の一部の報告では、アブリスボ接種後に妊娠高血圧症候群のリスクが増加する可能性が指摘されています。一方、アブリスボの薬事承認に用いられた臨床試験では、妊娠高血圧症候群が明確に増加したとは確認されませんでした。厚生労働省も、現時点では結果の解釈に注意が必要であり、リスクの増加は確立していないとしています。もともと妊娠高血圧症候群のリスクが高い方や、現在治療中の方は、接種前に産婦人科医へ相談してください。
11.妊婦が接種すると赤ちゃんがRSウイルスに感染することはない?
アブリスボを接種したことが原因で、赤ちゃんがRSウイルス感染症になることはありません。アブリスボはRSウイルスそのものを増殖させて使う生ワクチンではなく、RSウイルスのFタンパク質を利用した組換えワクチンです。胎盤を通って赤ちゃんへ移行するのは、お母さんの体内で作られた抗体です。
12.アブリスボを接種してもRSウイルス対策は必要?
必要です。アブリスボは高い重症化予防効果を示していますが、RSウイルス感染を100%防ぐワクチンではありません。赤ちゃんが生まれた後も、手洗い、風邪症状がある家族との濃厚な接触を避ける、兄弟姉妹が風邪をひいているときは特に注意する、家庭内で喫煙しないなどの基本的な感染対策は大切です。
13.アブリスボとベイフォータス・シナジスの違いは?
RSウイルスの予防には、ワクチンとは別に「モノクローナル抗体製剤」という方法もあります。
| アブリスボ | モノクローナル抗体製剤 | |
|---|---|---|
| 主な対象 | 妊婦 | 出生後の乳幼児 |
| 方法 | 妊婦の免疫に抗体を作らせる | 完成した抗体を赤ちゃんへ直接投与 |
| 赤ちゃんを守る仕組み | 胎盤を通して母体抗体を移行 | 赤ちゃんへ直接抗体を投与 |
| 定期接種 | 2026年度から対象 | 現時点では定期接種ではない |
日本では、重症RSウイルス感染症のリスクが高い一部の乳幼児に対して、シナジス®(パリビズマブ)やベイフォータス®(ニルセビマブ)などの抗体製剤が使用されることがあります。アブリスボを接種した場合に出生後の抗体製剤も必要かどうかは、赤ちゃんの在胎週数、基礎疾患、出生時期などによって異なるため、小児科医・産婦人科医に確認してください。
14.アブリスボを接種できない・注意が必要な場合
発熱している場合、重い急性疾患にかかっている場合、アブリスボの成分でアナフィラキシーを起こしたことがある場合などは、接種できないことがあります。また、過去のワクチン接種で強いアレルギー症状があった方、血小板減少症や凝固障害がある方、抗凝固療法を受けている方、妊娠高血圧症候群のリスクが高い方などは、あらかじめ医師へ相談してください。
15.よくある質問
Q1.アブリスボは妊娠何週で接種しますか?
2026年度の定期接種では、妊娠28週0日~36週6日に1回接種します。薬事承認上は妊娠24~36週で接種可能ですが、定期接種の対象期間とは異なります。
Q2.出産直前でも接種できますか?
接種後14日以内に出生した赤ちゃんでの有効性は確立していません。出産予定日や計画分娩の日程を確認し、余裕をもって接種することが大切です。
Q3.前の妊娠でアブリスボを接種しました。今回も接種できますか?
はい。厚生労働省は、過去の妊娠でアブリスボを接種したことがある方も、今回の妊娠で定期接種の対象になるとしています。母体から胎児へ移行する抗体は時間とともに減少するため、それぞれの妊娠で赤ちゃんへ抗体を届けることが目的です。
Q4.インフルエンザワクチンなどと一緒に打てますか?
厚生労働省の資料では、他の不活化ワクチンとの同時接種は可能とされています。妊娠中に必要なワクチンについては、接種時期も含めて医師へ相談してください。
Q5.接種すればRSウイルスに絶対かかりませんか?
いいえ。感染や発症を完全にゼロにするワクチンではありません。アブリスボの大きな目的は、出生直後から生後数か月の重症化、細気管支炎・肺炎、入院のリスクを減らすことです。
16.まとめ|アブリスボは「生まれてすぐの赤ちゃんを守る」ためのワクチン
アブリスボは、妊婦さんが接種することで作られた抗体を胎盤を通して赤ちゃんに届け、RSウイルス感染症が重症化しやすい生後早期を守る母子免疫ワクチンです。
- 2026年度から妊婦の定期接種
- 妊娠28週0日~36週6日に1回接種
- 生後90日までの重症RSV下気道疾患を約82%減少
- 生後180日までの重症RSV下気道疾患を約69%減少
- RSVによる入院を生後90日までで約68%減少
- 主な副反応は注射部位の痛み、頭痛、筋肉痛など
「妊娠中にワクチンを打つ」ということに不安を感じるのは自然なことです。大切なのは、ワクチンのメリットだけでなく、副反応や現在わかっている安全性の情報も理解したうえで判断することです。妊娠経過や出産予定日は一人ひとり異なります。接種を迷っている場合は、妊婦健診の際に産婦人科医へ相談し、自分の妊娠週数や出産予定に合った接種時期を確認しましょう。
参考文献
- 厚生労働省「RSウイルスワクチン」
- PMDA「アブリスボ筋注用 一般の方向け情報」
- Kampmann B, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023.
- U.S. FDA Clinical Review Memo: ABRYSVO
- 厚生労働省「第112回予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(2026年7月)」
※本記事は2026年8月時点の公的資料および主要臨床試験をもとに作成しています。予防接種制度や添付文書は改訂されることがあるため、実際の接種時には最新の自治体・厚生労働省・医療機関の案内をご確認ください。
