クレプトマニア(窃盗症)とは?万引きをやめられない原因・症状・治療法を医師が解説

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病気について

「万引きをしてはいけないと分かっているのに、どうしてもやめられない」

「お金に困っているわけではなく、必要でもない物を盗ってしまう」

「盗った直後はホッとするのに、その後は強い罪悪感に襲われる」

このような状態を繰り返している場合、単なる「癖」や「意思の弱さ」ではなく、クレプトマニア(kleptomania:窃盗症)という精神疾患が関係している可能性があります。クレプトマニアはDSM-5-TRやICD-11でも認められている衝動制御に関連する精神疾患です。ただし、万引きをした人がすべてクレプトマニアというわけではありません。

この記事では、クレプトマニアとはどのような病気なのか、一般的な万引きとの違い、原因、症状、疫学、治療法、家族の対応、有名人の報道を見る際の注意点などについて、最新の研究をもとに解説します。

1.クレプトマニア(窃盗症)とは?

クレプトマニア(窃盗症)とは、必要性や金銭的価値とは関係なく、物を盗みたいという衝動を繰り返し抑えられなくなる病気です。特徴的なのは、欲しい物を手に入れるために計画的に盗むのではなく、「盗むという行為そのもの」に強く駆り立てられる点です。典型的には、

  • 盗む前に緊張感や落ち着かなさが高まる
  • 「盗りたい」という強い衝動が生じる
  • 盗んだ瞬間に快感・安心感・解放感を感じる
  • その後、罪悪感、後悔、自己嫌悪に襲われる
  • それでも再び衝動が起こり、盗みを繰り返す

というサイクルがみられます。盗んだ物自体にはほとんど興味がなく、使わずに保管したり、人にあげたり、捨てたりすることもあります。

2.「普通の万引き」とクレプトマニアは何が違う?

非常に重要なのは、万引き=クレプトマニアではないという点です。

特徴 一般的な万引き クレプトマニア
主な目的 商品が欲しい、金銭的利益 盗む衝動を満たすこと
盗む物 欲しい物・高価な物など 不要な物や購入できる物も多い
計画性 計画的な場合がある 衝動的なことが多い
盗む前 必ずしも緊張はない 緊張・興奮が高まる
盗んだ直後 利益や満足感 解放感・安心感
その後 さまざま 罪悪感・後悔・羞恥心が強いことが多い

また、万引きや窃盗は、躁状態、認知症、薬物やアルコールの影響、反社会的行動、素行症、精神病症状などでも起こることがあります。そのため、「繰り返し盗んでいる」という事実だけでクレプトマニアと診断することはできません。

3.クレプトマニアの診断で重要な特徴

クレプトマニアは精神科・心療内科などで、本人への詳細な問診をもとに診断します。診断では、主に次のような点を確認します。

  • 必要でも金銭的価値があるわけでもない物を盗む衝動を繰り返し抑えられない
  • 盗む直前に緊張感が高まる
  • 盗むと快感、満足感、安心感などを感じる
  • 怒りや復讐のための窃盗ではない
  • 妄想や幻覚による行動ではない
  • 躁状態、素行症、反社会的パーソナリティなど、別の病気ではより適切に説明できない

特に重要なのは「なぜ盗んだのか」という動機です。窃盗行為そのものではなく、その前後にどのような感情や衝動があったのかを慎重に評価する必要があります。

4.クレプトマニアはなぜ起こる?

クレプトマニアの原因は、現在も完全には解明されていません。現在では、単一の原因ではなく、脳の報酬系、衝動性、強迫性、感情調節、ストレス、依存症的なメカニズムなどが複雑に関係していると考えられています。

① 脳の「報酬系」と依存症に似た仕組み

盗みを行ったときに一時的な快感や解放感が得られることで、その行動が脳内で「報酬」として学習される可能性があります。すると、

ストレスや緊張 → 盗みたい衝動 → 窃盗 → 一時的な安心・快感

というサイクルが繰り返され、次第に行動が習慣化していきます。この点は、アルコール依存症やギャンブル障害などの「行動嗜癖」と似た部分があります。

② 衝動性

クレプトマニアでは、「やってはいけない」と理解していても、その瞬間の衝動を抑えることが難しくなることがあります。2025年に報告された研究でも、クレプトマニア患者では健常者と比較して高い衝動性や心理的問題が認められています。

③ 強迫性

一方で、クレプトマニアは単純な「衝動性」だけでは説明できません。

「盗みたいという考えが何度も浮かぶ」「盗まないと落ち着かない」という点では、強迫症(OCD)に似た強迫性を示すケースもあります。

近年ではクレプトマニアを、衝動性と強迫性の両方を持つimpulsive-compulsive spectrum(衝動―強迫スペクトラム)として捉える考え方も注目されています。

④ ストレスや感情調節

不安、孤独、怒り、抑うつ、家庭問題、仕事上のストレスなどが窃盗行動の引き金になることもあります。盗むことで一時的に嫌な感情から解放されるため、結果としてその行動が繰り返されてしまいます。2026年に日本のクレプトマニア患者を対象として行われた研究では、盗みに対する「期待」や不快な感情への耐えにくさが、窃盗行動を維持する要因になっている可能性が示されています。

5.クレプトマニアと一緒にみられやすい病気

クレプトマニアでは、他の精神疾患を併発していることが少なくありません。

  • うつ病
  • 不安症
  • 強迫症(OCD)
  • 摂食障害
  • アルコール使用障害
  • 薬物使用障害
  • その他の衝動制御障害

特に、うつ病、不安症、摂食障害、依存症との関連は多くの研究で指摘されています。そのためクレプトマニアだけを治療するのではなく、併存する精神疾患を同時に評価して治療することが重要です。

6.クレプトマニアはどれくらい多い?|疫学

クレプトマニアについては大規模な一般人口調査が少なく、正確な有病率は分かっていません。従来は一般人口の約0.3~0.6%程度と推定されることが多く、2025年の報告では、過去の研究をまとめるとおよそ0.3~2.6%という幅があります。ただし、診断基準や調査対象によって数字に大きな違いがあり、これらはあくまで推定値です。万引き・窃盗をした人の中では、過去の研究で数%から20%台がクレプトマニアの基準を満たしたという報告もありますが、これも古い研究や選択された集団を含んでいるため慎重に解釈する必要があります。

女性に多い?

これまでの臨床研究では女性の割合が高く、患者の約3分の2程度が女性とする報告や、女性:男性がおよそ3:1とする報告があります。ただし、女性の方が医療機関を受診しやすい、男性では通常の窃盗として扱われやすいなどの選択バイアスがある可能性もあります。

何歳から始まる?

思春期から若年成人期に始まるケースが比較的多いとされています。一方で、中年以降に初めて窃盗行動が出現した場合には、躁状態、認知症を含む神経認知障害、脳疾患、薬物など別の原因についても評価が必要です。

7.「やめたいのにやめられない」のは意思が弱いから?

クレプトマニア患者の多くは、盗みが違法行為であり、家族や仕事を失う可能性があることを理解しています。それにもかかわらず、衝動が生じると行動を止められなくなることがあります。そのため、

  • 「二度とやらないと約束しなさい」
  • 「反省が足りない」
  • 「意思が弱いだけ」

という対応だけでは再発を防げないことがあります。一方で、病気であることは窃盗行為の責任がなくなることを意味するものでもありません。行為に対する責任と、再発を防ぐための医学的治療は分けて考えることが重要です。

8.クレプトマニアの治療法

クレプトマニアの治療については、うつ病や不安症などと比べて大規模な研究が少なく、世界的にも「これをすれば必ず治る」という標準治療が完全に確立しているわけではありません。現在は認知行動療法(CBT)などの心理療法を中心として、必要に応じて薬物療法や併存疾患の治療を組み合わせる方法が一般的です。

① 認知行動療法(CBT)

現在、最も重要な治療の一つが認知行動療法です。具体的には、

  • どのような状況で盗みたくなるのかを分析する
  • ストレス・感情と窃盗の関係を記録する
  • 盗みに結びつく考え方を修正する
  • 衝動が起こったときの代替行動を練習する
  • 高リスクな状況を避ける
  • 問題解決能力を高める
  • 再発防止策を考える

などを行います。

② マインドフルネス

「盗りたい」という衝動が起きたときに、すぐに行動へ移さず、感情や身体感覚を客観的に観察する練習です。日本で行われた2022年の研究では、クレプトマニア患者に12回の認知行動療法+マインドフルネスを行ったところ、症状とQOLの改善が認められました。ただし、対照群のない比較的小規模な研究であり、今後さらに大規模な研究が必要です。

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③ 再発予防

クレプトマニアでは「一度盗まなくなった=治療終了」と考えないことが重要です。再発しやすい状況をあらかじめ把握しておきます。

  • 一人で買い物へ行かない
  • 買い物リストを作って短時間で済ませる
  • 衝動が強い店舗や売り場を避ける
  • 衝動が生じたら一度店外へ出る
  • 治療者や家族に相談する
  • ストレスや睡眠不足を放置しない

など、具体的な行動計画を作ります。

9.薬で治療できる?

クレプトマニアに対する薬物療法の研究は非常に限られています。

ナルトレキソン

現在、薬物療法の中で比較的エビデンスがあるのがオピオイド受容体拮抗薬ナルトレキソンです。2009年に25人を対象として行われた8週間のランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、ナルトレキソン群で、

  • 盗みたいという衝動
  • 実際の窃盗行動
  • クレプトマニア全体の重症度

がプラセボ群より有意に改善しました。また、2022年の衝動制御障害に対する薬物療法のシステマティックレビューでも、クレプトマニアについて比較試験で有効性が確認された薬剤としてナルトレキソンが挙げられています。ただし、研究対象人数は非常に少なく、クレプトマニアに対する薬物療法のエビデンスはまだ十分とはいえません。国内での承認状況や使用できる薬剤も異なるため、自己判断で薬を使用せず、精神科医など専門医と相談する必要があります。

SSRI(抗うつ薬)は?

クレプトマニアとうつ病・強迫症の類似性から、SSRIなどの抗うつ薬が使用されることがあります。しかし、症例報告で改善したケースがある一方、比較試験では明確な有効性を確認できなかった研究もあり、クレプトマニアそのものに対するSSRIの効果は一定していません。ただし、うつ病、不安症、強迫症などを併発している場合には、それらの治療目的でSSRIが有効なことがあります。

10.2025~2026年の研究から分かってきたこと

近年の研究では、クレプトマニアを単なる「衝動制御の問題」として捉えるのではなく、より複雑な病態として考えるようになっています。2025年のScientific Reportsに掲載された研究では、クレプトマニア患者には衝動性と強迫性の両方の特徴がみられることが示されました。また、治療中断や再発も少なくないことから、単に「盗らないよう我慢する」だけではなく、感情調節、衝動性、強迫性、併存疾患などを包括的に治療する必要性が指摘されています。さらに2026年、日本のクレプトマニア患者を対象にした研究では、盗みに対する「渇望」や、

「盗むとスッキリする」「気持ちが楽になる」

といった結果への期待が検討されました。特に、盗むことに対する肯定的な期待が強い患者ほど再犯リスクが高く、自己コントロールが低い傾向がみられました。このことから今後は、一人ひとりについて「なぜ盗む行動が続いているのか」を分析し、それに合わせて治療内容を変える個別化治療が重要になると考えられています。

11.家族はどう対応すればいい?

家族としては、責め続けることだけでも、逆にすべてを病気のせいにすることだけでも問題解決につながりません。大切なのは、

  • 窃盗行為そのものを容認しない
  • 本人だけの意思や根性に頼らない
  • 治療につなげる
  • 再発しやすい状況を一緒に把握する
  • 家族だけで問題を抱え込まない

というバランスです。本人が受診を拒否している場合でも、家族だけで精神科・依存症専門医療機関などに相談できる場合があります。

12.何科を受診すればいい?

クレプトマニアが疑われる場合には、

  • 精神科
  • 心療内科
  • 依存症専門外来
  • 衝動制御障害を扱う専門医療機関

などが相談先になります。特に、

  • 何度も万引きを繰り返している
  • 「二度としない」と決意しても止められない
  • 盗む前に強い衝動や緊張感がある
  • 盗むと一時的に安心する
  • 家族や仕事に影響が出ている
  • 警察沙汰や逮捕を繰り返している
  • うつ、不安、摂食障害、アルコール問題などもある

場合には、早めの専門医への相談をおすすめします。

13.クレプトマニアと有名人|「万引きした=病気」と決めつけない

インターネットでは「クレプトマニアの有名人」として、さまざまな芸能人や著名人の名前が掲載されています。しかし、この情報には注意が必要です。

万引きや窃盗で報道されたというだけでは、クレプトマニアと診断することはできません。

たとえば女優のウィノナ・ライダー(Winona Ryder)は2001年の万引き事件をきっかけに、海外メディアでクレプトマニアとの関連が盛んに議論されました。しかし当時の報道でも、本人がクレプトマニアであると公表したわけではないことが指摘されています。そのため「ウィノナ・ライダーはクレプトマニアだった」と医学的に断定するのは適切ではありません。

一方、Sex Pistolsのギタリストとして知られるSteve Jones(スティーヴ・ジョーンズ)は、自身の過去の窃盗行動について、物が欲しかったのではなく「盗むことが一種の解放になっていた」と語り、自らkleptomaniaという言葉を使って説明しています。ただし、本人がその言葉を使用していても、正式な医学的診断が確認できるとは限りません。著名人についても一般の人と同じく、実際の診察なしに精神疾患を診断することはできません。

14.クレプトマニアと犯罪責任は別問題

「クレプトマニアなら、万引きをしても罪にならないのでしょうか?」という疑問を持つ方もいます。しかし、クレプトマニアの診断があることと、刑事責任が免除されることは同じではありません。精神医学的診断と法的責任能力は別々に評価されます。治療の目的は窃盗行為を正当化することではなく、本人が窃盗を繰り返さず社会生活を取り戻すために、原因となる衝動や心理状態を治療することです。

15.クレプトマニアは治る?

適切な治療によって長期間窃盗を行わず生活できるようになる人はいます。一方で、クレプトマニアは再発を繰り返すことがあり、短期間の治療だけでは十分でない場合があります。重要なのは「二度としない」という決意だけに頼らず、

  • 自分の引き金を知る
  • 衝動への対処法を身につける
  • 高リスク状況を避ける
  • 併存する精神疾患を治療する
  • 家族や医療者などに相談できる環境を作る
  • 再発しても治療を中断しない

ことです。

16.まとめ

クレプトマニア(窃盗症)は、単なる「万引き癖」ではなく、盗みたい衝動をコントロールすることが困難になる精神疾患です。一方で、万引きをした人すべてがクレプトマニアというわけでもありません。クレプトマニアでは、盗む前に緊張が高まり、盗むことで一時的な安心感や快感を得た後に、罪悪感や後悔を感じるというサイクルがみられることがあります。治療では、認知行動療法、再発予防、マインドフルネスなどの心理的アプローチが中心となり、必要に応じて薬物療法や、うつ病・不安症・摂食障害・依存症などの併存疾患の治療を組み合わせます。「もう絶対にしない」と何度決意しても万引きを繰り返してしまう場合には、本人の意思だけの問題として抱え込まず、精神科や依存症を専門とする医療機関へ相談することが大切です。

※本記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個々の患者さんの診断・治療を行うものではありません。クレプトマニアの診断には、窃盗の動機や前後の心理状態、他の精神疾患・身体疾患などを含めた専門的な評価が必要です。

参考文献

この記事について

この記事は、公的機関・診療ガイドライン・医学論文などを参考に作成しています。

本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断や治療を代替するものではありません。 気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

執筆者:小林 知貴
所属:いしうちファミリークリニック 院長
資格:医学博士/家庭医療専門医/総合診療専門医/総合内科専門医

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