「通勤や通学の途中で、急にお腹が痛くなる」
「下痢と便秘を繰り返し、外出するのが不安」
「検査では異常がないと言われたのに、腹痛が続いている」
このような症状の背景には、過敏性腸症候群(IBS)が隠れていることがあります。過敏性腸症候群は、単に「ストレスでお腹が弱くなっている状態」ではありません。脳と腸の情報伝達、腸の動き、痛みの感じ方、腸内環境、食事、心理社会的な要因などが複雑に関係する脳腸相関の病気です。
この記事では、過敏性腸症候群の原因や症状、診断、下痢型・便秘型に応じた治療法、薬物療法、食事・生活習慣でできる対処法を解説します。さらに、小児の過敏性腸症候群や、症状が重なりやすい機能性ディスペプシア、受診が必要な警告症状についても紹介します。
この記事のポイント
- IBSは腹痛や腹部不快感と便通異常を繰り返す「腸と脳の相互作用の病気」です。
- 血便、体重減少、発熱、貧血、夜間の下痢などがある場合は、IBS以外の病気を調べる必要があります。
- 治療は、病気への理解、生活習慣、食事、薬物療法、心理療法を組み合わせて行います。
- 低FODMAP食は自己流で長期間続けず、制限・再導入・個別化の順に行うことが重要です。
- 小児では学校生活への復帰を支えながら、認知行動療法などを活用します。
- 1.過敏性腸症候群(IBS)とは?
- 2.過敏性腸症候群の主な症状
- 3.IBSの4つのタイプ|下痢型・便秘型・混合型
- 4.過敏性腸症候群の原因
- 5.過敏性腸症候群の診断|Rome VとRome IV
- 6.IBSが疑われるときに行う検査
- 7.IBSではない可能性を考える警告症状
- 8.過敏性腸症候群と鑑別が必要な病気
- 9.IBSと機能性ディスペプシアの違い
- 10.過敏性腸症候群の治療法
- 11.生活習慣でできるIBSの対処法
- 12.食物繊維の取り方
- 13.低FODMAP食とは?
- 14.過敏性腸症候群の薬物療法
- 15.心理療法・脳腸行動療法
- 16.小児の過敏性腸症候群
- 17.小児IBSの生活習慣と学校での対処法
- 18.小児IBSの治療法と薬物療法
- 19.過敏性腸症候群は何科を受診する?
- 20.過敏性腸症候群についてよくある質問
- 21.まとめ|IBSは一人で我慢せず、症状に合った治療を
- 参考文献
1.過敏性腸症候群(IBS)とは?
過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)は、腹痛または腹部不快感と、下痢・便秘などの便通異常を繰り返す病気です。内視鏡検査や血液検査で、潰瘍、強い炎症、腫瘍などの明らかな原因が見つからないことが特徴です。ただし、「検査で異常がないから気のせい」という意味ではありません。IBSは、現在では機能性消化管疾患という枠組みから、より広く腸と脳の相互作用の病気(Disorders of Gut-Brain Interaction:DGBI)として捉えられています。症状が続くと、通勤・通学、会議、試験、旅行、スポーツ、会食などに支障をきたします。「トイレに行けない状況が怖い」という不安が症状をさらに悪化させ、生活の質を大きく低下させることもあります。
「ストレスが原因」と決めつけないことが大切
ストレスはIBSを悪化させる重要な要因ですが、ストレスだけが原因ではありません。腸の知覚過敏、運動異常、感染後の変化、食事、腸内細菌、遺伝的・環境的要因などが複合的に関係しています。「精神的に弱いから」「考えすぎだから」と我慢せず、症状が続く場合は医療機関に相談しましょう。
2.過敏性腸症候群の主な症状
IBSでは、腹痛や腹部不快感に加えて、便の回数や硬さが変化します。
- 腹痛、下腹部痛、差し込むような痛み
- 腹部不快感、腹部膨満感、お腹の張り
- 下痢、軟便、水様便
- 便秘、硬い便、排便困難
- 下痢と便秘を交互に繰り返す
- 急な便意、便意切迫
- 排便後も便が残っているように感じる
- 粘液が便に付着する
- ガスが多い、腹鳴が気になる
- 排便によって痛みが軽くなる、または悪化する
症状は、起床後、食後、通勤・通学前、会議や試験の前などに強くなることがあります。ただし、夜間に症状がないことはIBSの必須条件ではありません。睡眠中に目が覚めるほどの下痢、繰り返す夜間痛、血便、発熱などがある場合は、炎症性腸疾患など別の病気を調べる必要があります。
3.IBSの4つのタイプ|下痢型・便秘型・混合型
IBSは、便の形状を示す「ブリストル便形状スケール」に基づいて分類されます。
| タイプ | 便の特徴 | 主な症状 |
|---|---|---|
| 下痢型(IBS-D) | 軟便・水様便が多い | 急な便意、頻回の排便、外出への不安 |
| 便秘型(IBS-C) | 硬い便、コロコロ便が多い | 排便困難、強いいきみ、残便感、腹部膨満 |
| 混合型(IBS-M) | 硬い便と軟便・水様便の両方が多い | 下痢と便秘を繰り返す |
| 分類不能型(IBS-U) | 上記の基準に明確に当てはまらない | 腹痛と便通異常はあるが分類が難しい |
IBSのタイプは固定されるとは限りません。体調、食事、ストレス、薬の影響などによって、下痢型から混合型へ変化することもあります。
4.過敏性腸症候群の原因
IBSの原因は一つではありません。以下の要因が重なり、腸の動きや感覚が変化すると考えられています。
4-1.脳腸相関の変化
脳と腸は、自律神経、ホルモン、免疫、腸内細菌などを介して互いに影響しています。これを脳腸相関と呼びます。緊張や不安によって腹痛や便意が強くなり、その経験によって「またお腹が痛くなるのではないか」という不安が生じると、症状がさらに強くなる悪循環が起こります。
4-2.内臓知覚過敏
IBSでは、健康な人であれば気にならない程度の腸の拡張やガスを、痛みや強い不快感として感じることがあります。これは「痛みを我慢できない」という意味ではなく、腸から脳へ送られる刺激の処理方法が変化している状態です。
4-3.腸の運動異常
腸の動きが速すぎると下痢や便意切迫が起こり、遅すぎると便秘や腹部膨満が生じます。食後に腸が活発に動く「胃結腸反射」が強く現れ、食後すぐにトイレへ行きたくなる人もいます。
4-4.感染後過敏性腸症候群
細菌性・ウイルス性胃腸炎などの後に、腹痛や下痢が長期間続くことがあります。これを感染後過敏性腸症候群(PI-IBS)と呼びます。感染後に腸の粘膜、免疫反応、腸内細菌、知覚が変化することが関係すると考えられています。
4-5.食事の影響
次のような食品や食べ方が症状を悪化させることがあります。
- 脂肪の多い食事
- 一度に食べる量が多い食事
- アルコール
- カフェインを多く含む飲料
- 香辛料の多い食事
- 人工甘味料や糖アルコール
- 発酵しやすい糖質であるFODMAPを多く含む食品
ただし、悪化する食品には個人差があります。症状がある食品をすべて禁止するのではなく、食事記録をつけながら原因を絞り込むことが大切です。
4-6.腸内細菌の変化
IBSと腸内細菌との関連は研究されていますが、すべての患者に共通する特定の「悪玉菌」が見つかっているわけではありません。市販の腸内細菌検査だけでIBSの原因や最適な治療法を決定することは、現時点では困難です。
4-7.心理社会的要因
不安、抑うつ、睡眠不足、家庭や職場でのストレス、過去のつらい体験などが症状の強さに影響することがあります。ただし、心理的な要因があることと、症状が「気のせい」であることは同じではありません。
5.過敏性腸症候群の診断|Rome VとRome IV
IBSは、症状の特徴と経過を確認し、警告症状や必要な検査の結果を踏まえて診断します。以前は「すべての病気を検査で除外してから診断する病気」と説明されることが多くありました。しかし現在は、典型的な症状があり、警告症状や検査異常がなければ、必要な検査を選択しながら積極的に診断する考え方が重視されています。
2026年に公表されたRome VのIBS診断基準
最新の国際基準であるRome Vでは、次の条件を満たす場合にIBSを考えます。
- 過去3か月間に、平均して月3日以上、繰り返すものの持続的ではない腹痛または腹部不快感がある
- 次の3項目のうち、2項目以上と関連する
- 排便との関連がある
- 排便回数の変化がある
- 便の形状の変化がある
- 症状が診断の少なくとも6か月前から始まっている
Rome IVとの違い
Rome IVでは「過去3か月間に週1回以上の腹痛」が中心でした。Rome Vでは腹部不快感が再び含まれ、頻度は「月3日以上」へ変更されています。一方、日本消化器病学会の現行ガイドラインはRome IVを基盤としているため、医療現場や研究ではRome IVが使用される場合もあります。
6.IBSが疑われるときに行う検査
すべての患者に大腸内視鏡検査やCT検査が必要なわけではありません。年齢、症状、家族歴、診察所見などに応じて検査を選びます。
基本的に検討される検査
- 血液検査:貧血、炎症反応、甲状腺機能など
- 便潜血検査
- 便検査:感染症が疑われる場合
- 腹部超音波検査
- 必要に応じて便中カルプロテクチンなどの炎症評価
大腸内視鏡検査を検討する場合
- 血便や便潜血陽性がある
- 鉄欠乏性貧血がある
- 原因不明の体重減少がある
- 発熱や炎症反応の上昇がある
- 夜間に目が覚める下痢が続く
- 50歳以降に新たな症状が出現した
- 大腸がんや炎症性腸疾患の家族歴がある
- 通常の治療で改善しない
年齢だけで内視鏡検査の必要性が決まるわけではありません。大腸がん検診の対象年齢や既往歴も含め、医師と相談して判断します。
7.IBSではない可能性を考える警告症状
次の症状がある場合は、IBSと自己判断せず医療機関を受診してください。
- 血便、黒い便
- 原因不明の体重減少
- 発熱
- 繰り返す嘔吐
- 貧血
- 夜間に目が覚める下痢や腹痛
- 徐々に症状が悪化している
- 腹部にしこりを触れる
- 大腸がんや炎症性腸疾患の家族歴がある
- 小児で体重増加不良や成長の遅れがある
突然の激しい腹痛、冷や汗、意識がもうろうとする、大量の血便などがある場合は、早急な受診が必要です。
8.過敏性腸症候群と鑑別が必要な病気
| 病気・状態 | IBSとの違い・疑うポイント |
|---|---|
| 炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎・クローン病 |
血便、発熱、体重減少、貧血、炎症反応上昇などを伴います。内視鏡検査が必要です。 |
| 大腸がん・大腸ポリープ | 血便、貧血、体重減少、便が細くなる、新しく出現した便通異常などが手がかりになります。 |
| 顕微鏡的大腸炎 | 慢性的な水様性下痢が中心です。内視鏡で見た目が正常でも、生検で診断されることがあります。 |
| 感染性腸炎・寄生虫感染 | 発熱、急な発症、海外渡航、生ものの摂取、周囲の流行などが手がかりになります。 |
| セリアック病 | 小麦などに含まれるグルテンに関連する自己免疫疾患です。日本では比較的まれですが、慢性下痢、貧血、体重減少などがある場合に検討します。 |
| 乳糖不耐症・果糖吸収不良 | 牛乳や果物など特定の食品を摂取した後に、下痢や腹部膨満が起こります。 |
| 胆汁酸性下痢 | 水様便や食後の急な便意が中心です。胆のう摘出後や回腸の病気がある人で起こることがあります。 |
| 甲状腺疾患 | 甲状腺機能亢進症では下痢、甲状腺機能低下症では便秘が起こることがあります。 |
| 薬剤による便通異常 | 抗菌薬、メトホルミン、マグネシウム製剤、下剤、オピオイドなどが原因になることがあります。 |
| 子宮内膜症などの婦人科疾患 | 月経に伴う腹痛、骨盤痛、性交痛などが手がかりになります。 |
| 骨盤底機能障害 | 強くいきんでも便が出ない、指で便を出す必要がある、残便感が強い場合に検討します。 |
9.IBSと機能性ディスペプシアの違い
機能性ディスペプシア(FD)も、IBSと同じく腸と脳の相互作用の病気に分類されます。
| 過敏性腸症候群(IBS) | 機能性ディスペプシア(FD) | |
|---|---|---|
| 主な部位 | 下腹部を含む腹部、腸 | みぞおち、胃の周辺 |
| 主な症状 | 腹痛・腹部不快感、下痢、便秘、便通異常 | 食後の胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛み・灼熱感 |
| 排便との関係 | 排便に関連して症状が変化しやすい | 食事との関連が強く、排便との関係は中心ではない |
IBSと機能性ディスペプシアは重なることがある
IBSとFDは別の病気ですが、同じ人に同時に起こることがあります。例えば、「食後に胃がもたれて少量しか食べられない」というFDの症状と、「食後に下腹部が痛くなって下痢をする」というIBSの症状が重なることがあります。症状が重なっている場合は、胃だけ、または腸だけを治療しても十分に改善しないことがあります。症状に応じて、酸分泌抑制薬、消化管運動機能改善薬、便通を調節する薬、心理療法などを組み合わせます。飲み込みにくさ、繰り返す嘔吐、吐血、黒色便、貧血、体重減少がある場合は、胃・食道の器質的疾患を除外するために胃内視鏡検査を検討します。
10.過敏性腸症候群の治療法
IBSの治療では、下痢や便秘だけでなく、腹痛、腹部膨満、生活への影響、不安、睡眠などを総合的に評価します。治療は一般的に、次の順序で進めます。
- 病気の仕組みを理解し、治療目標を共有する
- 生活習慣と食事を見直す
- 症状やIBSのタイプに合った薬を使用する
- 改善が不十分な場合は、心理療法や中枢性神経調節薬などを検討する
治療目標は必ずしも「症状を完全にゼロにすること」ではありません。腹痛や便通異常を減らし、学校、仕事、外出、食事などの日常生活を取り戻すことが重要です。
11.生活習慣でできるIBSの対処法
11-1.規則正しい食事を心がける
- 食事を抜かず、できるだけ一定の時間に食べる
- 一度に大量に食べず、必要に応じて少量ずつ食べる
- 早食いを避け、よくかんで食べる
- 夜遅い時間の大量摂取を避ける
11-2.食事・症状・便の記録をつける
食べたもの、食事時間、腹痛、便の形状、排便回数、月経、睡眠、ストレスなどを記録すると、悪化因子が見つかりやすくなります。ただし、細かく記録しすぎることで食事への不安が強くなる場合は、無理に続ける必要はありません。
11-3.睡眠を整える
睡眠不足や不規則な生活は、自律神経や痛みの感じ方に影響します。休日も含めて、起床時間を大きくずらさないことが大切です。
11-4.適度な運動を行う
ウォーキング、軽いジョギング、サイクリング、ヨガなど、無理なく継続できる運動を取り入れましょう。激しい運動で下痢が悪化する人は、運動前の大量摂取や高脂肪食、カフェインを避けるなどの調整が必要です。
11-5.トイレを我慢しすぎない
便意を繰り返し我慢すると、便秘や排便リズムの乱れにつながります。朝食後など、腸が動きやすい時間に落ち着いてトイレへ行く習慣を作りましょう。一方、便が出ないのに長時間いきみ続けることは避けてください。
11-6.ストレスへの対処法を増やす
腹式呼吸、筋弛緩法、マインドフルネス、十分な休養などは、ストレスへの反応を和らげる助けになります。症状のために外出や学校、仕事をすべて避けると、不安がさらに強くなることがあります。無理のない範囲で活動を維持し、少しずつ行動範囲を戻すことが大切です。
12.食物繊維の取り方
食物繊維はすべて同じではありません。IBSでは、一般に水溶性食物繊維が検討されます。
水溶性食物繊維を含む食品
- オート麦
- 大麦
- オクラ
- 海藻類
- 果物
- サイリウム
食物繊維を急に増やすと、ガスや腹部膨満が悪化することがあります。少量から始め、水分を十分に摂りながら調整してください。小麦ふすまなどの不溶性食物繊維は、便秘に有効なこともありますが、IBSでは腹痛や膨満感を悪化させる場合があります。
13.低FODMAP食とは?
FODMAPとは、小腸で吸収されにくく、大腸で発酵しやすい糖質の総称です。腸管内の水分やガスを増やし、腹痛、下痢、腹部膨満を悪化させることがあります。
| 比較的高FODMAPの食品例 | 比較的低FODMAPの食品例 |
|---|---|
| 玉ねぎ、にんにく、小麦製品の一部、豆類、牛乳、リンゴ、梨、はちみつ、糖アルコール | 米、オート麦、にんじん、トマト、ナス、バナナ、みかん、キウイ、乳糖を除いた乳製品 |
低FODMAP食は3段階で行う
- 短期間の制限:症状が改善するか確認する
- 再導入:食品群を一つずつ戻し、症状との関係を確認する
- 個別化:自分が耐えられる食品を残し、必要最小限の制限にする
低FODMAP食を自己流で長期間続けないでください。
過度な制限は、栄養不足、体重減少、食事への不安、腸内細菌への影響につながる可能性があります。特に小児、妊娠中、高齢者、低体重の人、摂食障害の既往がある人は、医師や管理栄養士に相談してください。
症状が改善しない場合は、漫然と制限を続けず中止します。
14.過敏性腸症候群の薬物療法
薬はIBSのタイプ、最も困っている症状、年齢、持病、妊娠の可能性などを考慮して選びます。以下は代表例であり、すべての薬がすべての患者に適しているわけではありません。
| 症状・タイプ | 主に検討される薬 | 注意点 |
|---|---|---|
| 下痢型(IBS-D) | ラモセトロン、ロペラミド、ポリカルボフィルカルシウムなど | ロペラミドは便回数や便の硬さを改善しますが、腹痛を含むIBS全体の症状が十分に改善しないことがあります。便秘や腹部膨満にも注意します。 |
| 便秘型(IBS-C) | リナクロチド、浸透圧性下剤、ポリカルボフィルカルシウム、慢性便秘症治療薬など | 便の状態と腹痛を見ながら調整します。下痢、腹痛、電解質異常などの副作用に注意します。 |
| 混合型・分類不能型 | その時点で優位な便通異常に合わせた薬 | 下痢止めと下剤を自己判断で繰り返すと、症状が不安定になることがあります。 |
| 腹痛・腹部膨満 | 消化管運動調節薬、鎮痙薬、腸溶性ペパーミントオイルなど | 緑内障、前立腺肥大、胃食道逆流症などがある人では適さない薬があります。 |
| 痛みや不安が強い場合 | 低用量の三環系抗うつ薬などの中枢性神経調節薬 | うつ病があるから使用するとは限りません。腸の痛みの感じ方を調整する目的で使用する場合があります。眠気、口渇、便秘、心電図変化などに注意します。 |
リファキシミンについて
リファキシミンは、海外のガイドラインでは下痢型IBSに対する選択肢の一つとして掲載されています。ただし、日本ではIBSに対する保険適用がありません。国内での主な適応は、肝性脳症に伴う高アンモニア血症です。海外の情報を見て、個人輸入などで使用しないでください。
整腸剤・プロバイオティクスについて
一部の患者では症状が改善する可能性がありますが、効果は菌株や製品によって異なります。「乳酸菌であれば何でも同じ効果がある」というわけではありません。使用する場合は製品を頻繁に変更せず、一定期間試し、効果がなければ漫然と継続しないことが大切です。
15.心理療法・脳腸行動療法
薬や食事だけで改善が不十分な場合、心理療法が役立つことがあります。
- 認知行動療法(CBT)
- 腸管指向性催眠療法
- リラクゼーション法
- ストレスマネジメント
- マインドフルネスを取り入れた治療
これらは「症状が心の問題だから行う治療」ではありません。脳腸相関に働きかけ、腹痛の受け止め方、予期不安、回避行動などを改善する治療です。

16.小児の過敏性腸症候群
IBSは成人だけでなく、小学生や中学生、高校生にも起こります。子どもでは、登校前、授業中、試験前、部活動の前などに腹痛や便意が強くなり、遅刻や欠席が増えることがあります。「学校に行きたくないから腹痛を訴えている」と決めつけず、まずは症状を病気として受け止めることが大切です。
小児でみられる症状
- 繰り返す腹痛
- 下痢または便秘
- 下痢と便秘の繰り返し
- 登校前や試験前に悪化する腹痛
- 排便すると痛みが軽くなる
- 腹部膨満、ガス
- トイレへの不安
- 症状による遅刻、早退、欠席
小児で特に注意する症状
- 血便
- 体重が増えない、身長が伸びない
- 発熱
- 繰り返す嘔吐
- 夜間に目が覚める下痢
- 口内炎や肛門周囲の病変を繰り返す
- 思春期の発来が遅れている
- 炎症性腸疾患やセリアック病の家族歴がある
- 右下腹部や右上腹部など、一定の場所だけが強く痛む
これらがある場合は、IBS以外の病気を調べる必要があります。
17.小児IBSの生活習慣と学校での対処法
17-1.病気について子どもと家族が理解する
「腸に大きな傷があるわけではないが、腸が刺激に敏感になり、痛みを強く感じている」と、年齢に合わせて説明します。腹痛が本物であることを認めたうえで、少しずつ日常生活へ戻る目標を立てます。
17-2.学校を完全に休み続けない
症状が強い時期には休養が必要ですが、長期間すべての活動を避けると、学校への復帰が難しくなることがあります。次のような配慮を学校と相談します。
- 授業中でもトイレへ行けるようにする
- トイレに近い座席にする
- 遅刻や早退を柔軟に扱う
- 保健室を利用できるようにする
- 試験時のトイレ利用を認める
- 症状が落ち着くまで体育や長時間の行事を調整する
17-3.規則正しい生活を整える
- 朝食を含め、食事時間をなるべく一定にする
- 睡眠時間を確保する
- 朝食後にトイレへ行く時間を作る
- 水分を適切に摂る
- 無理のない運動を続ける
- スマートフォンやゲームによる夜更かしを避ける
17-4.過度な食事制限を避ける
小児では成長に必要なエネルギー、たんぱく質、カルシウム、鉄などを確保する必要があります。厳格な低FODMAP食、自己流のグルテン除去、乳製品の全面除去などは、栄養不足や食事への恐怖につながる可能性があります。食事療法を行う場合は、小児科医や管理栄養士の支援を受けてください。
18.小児IBSの治療法と薬物療法
小児では、病気への理解、日常生活や学校生活の維持、心理療法を中心に治療します。薬物療法は症状や年齢に応じて補助的に使用します。
| 治療 | 位置づけ・注意点 |
|---|---|
| 認知行動療法(CBT) | 腹痛に対する不安、症状への過度な注意、学校や外出の回避を減らす治療です。小児IBSで推奨される治療の一つです。 |
| 腸管指向性催眠療法 | 腹痛や消化器症状の改善が期待され、小児の機能性腹痛疾患に対して比較的良好な根拠があります。 |
| 水溶性食物繊維 | サイリウムなどが便通や症状の改善に役立つ場合があります。少量から開始し、水分不足に注意します。 |
| プロバイオティクス | 一部の研究ではLactobacillus rhamnosus GGなどに効果が示されていますが、菌株ごとに評価する必要があります。 |
| 便秘治療薬 | 便秘型では、便を軟らかくする薬などを年齢や体重に応じて使用します。便秘が改善すると腹痛が軽くなる場合があります。 |
| ロペラミド | 下痢や便意切迫に対して限定的に使用されることがありますが、小児IBSでの有効性を示す十分な研究はありません。自己判断での連用は避けます。 |
| ペパーミントオイル | 腸溶性製剤が腹痛に役立つ可能性がありますが、製品、年齢、逆流症状などを確認する必要があります。 |
| アミトリプチリンなど | 症状が重く他の治療で改善しない場合に、専門医が慎重に検討します。眠気、心電図変化、自傷リスクなどへの配慮が必要です。 |
成人用のIBS治療薬を、子どもに自己判断で使用しないでください。
国内で成人のIBSに使用される薬の多くは、小児に対する適応や十分な安全性データがありません。市販の下痢止めや下剤を繰り返す前に、小児科へ相談してください。
19.過敏性腸症候群は何科を受診する?
まずは、内科、消化器内科、かかりつけ医へ相談してください。小児の場合は小児科が基本です。次のような場合は、消化器専門医への紹介を検討します。
- 警告症状がある
- 診断がはっきりしない
- 通常の治療で改善しない
- 体重減少や栄養障害がある
- 大腸内視鏡検査などが必要
不安、抑うつ、パニック症状、不登校などの影響が強い場合は、心療内科、精神科、小児心身症の専門医、心理職などと連携することがあります。
20.過敏性腸症候群についてよくある質問
Q1.過敏性腸症候群は完治しますか?
症状が長期間ほとんど出なくなる人もいますが、体調やストレスによって再発することもあります。「完全に治さなければならない」と考えすぎず、悪化因子を知り、症状をコントロールしながら日常生活を送れる状態を目指します。
Q2.IBSは大腸がんになりますか?
IBSそのものが大腸がんへ変化する病気ではありません。ただし、大腸がんでも便通異常や腹痛が起こります。血便、貧血、体重減少、新しく出現した症状などがある場合は検査が必要です。
Q3.市販の下痢止めを使ってもよいですか?
一時的に使用できる場合はありますが、感染性腸炎や炎症性腸疾患では下痢止めが適さないことがあります。発熱、血便、強い腹痛がある場合は使用せず、医療機関を受診してください。繰り返し必要になる場合も診断を受けましょう。
Q4.グルテンフリーにすれば治りますか?
すべてのIBS患者にグルテンフリー食が必要なわけではありません。小麦に含まれるフルクタンなど、グルテン以外の成分が症状に関係する場合もあります。セリアック病の検査を行う前に小麦を完全に除去すると、検査結果に影響する可能性があります。自己判断で始める前に医師へ相談してください。
Q5.子どもの腹痛は学校のストレスが原因ですか?
学校での緊張や人間関係が症状に影響することはありますが、それだけが原因とは限りません。便秘、感染症、炎症性腸疾患などを確認しながら、家庭・学校・医療機関が協力して対応することが大切です。
Q6.IBSと機能性ディスペプシアは同時に起こりますか?
はい。IBSとFDは同時に起こることがあります。下腹部痛や便通異常だけでなく、食後の胃もたれ、早期満腹感、みぞおちの痛みがある場合は、両方の病態を考えて治療します。
21.まとめ|IBSは一人で我慢せず、症状に合った治療を
過敏性腸症候群は、腹痛や腹部不快感と、下痢・便秘などの便通異常を繰り返す病気です。腸そのものの動きや知覚だけでなく、脳腸相関、食事、睡眠、ストレス、感染後の変化などが複雑に関係しています。
- 血便、体重減少、発熱、貧血、夜間の下痢は警告症状
- IBSは症状から積極的に診断し、必要な検査を選択する
- 食事制限は必要最小限にし、低FODMAP食を長期間続けない
- 薬は下痢型・便秘型などのタイプに応じて選ぶ
- 認知行動療法など、脳腸相関に働きかける治療も有効
- 小児では栄養と成長、学校生活への影響に配慮する
症状のために外出や仕事、学校生活が制限されている場合は、一人で悩まず、内科、消化器内科、小児科などへ相談してください。
参考文献
※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個別の診断や治療に代わるものではありません。薬の適応や承認状況は国、年齢、製品によって異なります。「医師監修」と表記する場合は、公開前に監修医が全文を確認し、氏名・専門領域・監修日・最終更新日を掲載してください。

