「爪の真ん中に横向きの溝がある」
「何本もの爪に同じようなへこみができている」
「爪の線は何かの病気のサインでは?」
このような爪の変化を見つけると、心配になる方も多いと思います。爪に横向きの溝やへこみができる変化のひとつに、Beau線(Beau’s lines:ボー線)があります。Beau線は、爪をつくる部分である「爪母(そうぼ)」の働きが一時的に低下し、爪の成長が一時的に遅くなったり止まったりすることで生じます。大切なのは、Beau線そのものは病名ではなく、「少し前に爪の成長が一時的に低下したことを示すサイン」だという点です。高熱を伴う感染症などのあとに出現することもあり、原因となった体調不良がすでに改善していれば、基本的には爪が伸びるにつれて線も先端へ移動し、やがてなくなっていきます。
Beau線(ボー線)とは?
Beau線は、爪の表面を横切るようにできる横向きの溝・くぼみです。英語では「Beau’s lines」と呼ばれ、19世紀にフランスの医師Joseph Honoré Simon Beauによって報告されたことから、この名前がついています。正常な爪は、爪の根元にある「爪母」でつくられ、少しずつ指先の方向へ伸びていきます。ところが、高熱や大きな病気、薬剤、外傷などによって爪母の細胞分裂が一時的に低下すると、その期間につくられた爪が薄くなります。その部分が成長して表面に出てくると、横方向の「溝」として見えるようになります。Beau線は、いわば「爪に残った過去の体調の記録」ともいえる変化です。
Beau線は危険な病気なのでしょうか?
Beau線を見つけても、すぐに重大な病気を意味するわけではありません。一時的な感染症や高熱、爪への刺激などが原因となり、すでに原因がなくなっているケースも少なくありません。その場合、特別な治療をしなくても、新しく正常な爪が伸びてくれば徐々に目立たなくなります。一方で、原因が思い当たらない場合や、何度も繰り返している場合、複数の爪に強い変化が出ている場合には、背景に病気や薬剤などがないか確認することがあります。
Beau線ができる主な原因
1.高熱や感染症
比較的よくみられるきっかけのひとつです。インフルエンザ、COVID-19、肺炎などの感染症や、高熱を伴う病気のあとにBeau線がみられることがあります。感染症にかかっている最中ではなく、回復して数週間〜数か月たってから爪の線に気づくことがあるのが特徴です。そのため、爪を見たときには、「最近は元気なのに、なぜ爪に線が?」と思うこともあります。しかし実際には、現在の病気ではなく、数か月前の発熱などを反映している可能性があります。
2.手足口病など子どもの感染症
子どもでは、手足口病のあとに爪の変化がみられることがあります。特に知られているのが、爪が根元から浮いたりはがれたりする「爪甲脱落症(onychomadesis)」ですが、Beau線がみられることもあります。手足口病が治った数週間後に爪の変化が出てくることがあり、多くの場合は自然に新しい爪が生えてきます。
3.強い体調不良や身体への負担
大きな手術や重い全身疾患など、身体に大きな負担がかかった場合にも、爪の成長が一時的に低下することがあります。「その頃はかなり体調を崩していた」という時期が、Beau線として後になって爪に現れることがあります。
4.爪への外傷や刺激
1本だけにBeau線がある場合には、全身の病気ではなく、その指だけに加わった刺激が原因のこともあります。例えば、爪を強くぶつけた、爪の根元を圧迫した、甘皮を強く処理した、ジェルネイルやマニキュアなどで爪の根元に繰り返し刺激が加わった、といったことがあります。特定の1〜2本だけに横溝がある場合は、こうした局所的な原因も考えます。
5.薬剤・抗がん剤
Beau線は、一部の薬剤、特に抗がん剤治療との関連がよく知られています。2023年に報告されたBeau線と爪甲脱落症に関する系統的レビューでも、報告例の中では薬剤、特に化学療法薬との関連が多くみられました。抗がん剤は細胞分裂の盛んな細胞に作用するため、爪をつくる爪母にも影響することがあります。抗がん剤を一定間隔で繰り返している場合には、治療周期に対応するように複数の横溝が形成されることもあります。
6.皮膚の病気
爪の周囲の湿疹、乾癬、爪囲炎などによって爪母に炎症が起こると、爪の形成が乱れて横方向の溝ができることがあります。爪の周囲に、赤み、腫れ、痛み、膿、皮膚の湿疹などがある場合には、爪そのものだけでなく周囲の皮膚も確認することが重要です。
7.栄養状態の低下
重度の栄養不良などでも爪の成長が低下し、Beau線が生じることがあります。ただし、Beau線があるという理由だけで「鉄不足」「亜鉛不足」「ビタミン不足」と判断することはできません。体重減少や食事摂取量の低下など、ほかの症状や状況と合わせて判断する必要があります。
「全部の爪に同じ高さの横線」がある場合は?
ここはBeau線を考えるうえで重要なポイントです。例えば、5本あるいは10本の爪に、ほぼ同じ位置の横溝がある場合があります。複数の爪が同じタイミングで成長を止めたと考えられるため、1本だけの外傷よりも、「その時期に身体全体に何らかの負担がかかった」可能性を考えます。
数か月前に、高熱が出た、インフルエンザやCOVID-19にかかった、肺炎になった、手術や入院をした、かなり体調を崩したといった出来事がなかったか振り返ってみると、原因が分かることがあります。
爪の位置から「いつ頃の体調不良か」が分かることがあります
爪は少しずつ伸び続けています。健康な成人を調べた研究では、平均的な伸びる速度は、
爪の平均的な成長速度は、
手の爪:約3〜3.5mm/月
足の爪:約1〜1.5mm/月
と報告されています。そのため、Beau線が爪の根元から6mmほど離れたところにある場合、おおよそ2か月前に爪の成長が低下する出来事があったのではないか、と推測できます。ただし、爪の伸びる速さには年齢、指の種類、健康状態などによる個人差があるため、あくまで目安です。
Beau線は自然に治りますか?
原因がすでに解消していれば、多くの場合は特別な治療を必要としません。正常な爪が根元から伸びてくると、Beau線も少しずつ指先方向へ移動していきます。最終的には爪を切る部分まで移動し、なくなります。手の爪が完全に生え替わるまでには一般に約4〜6か月、足の爪では約12〜18か月かかるため、足の爪の変化はかなり長く残ることがあります。「なかなか消えない」という場合でも、線が爪の先端方向へ少しずつ移動しているのであれば、正常に爪が伸びている可能性があります。
Beau線そのものに薬を塗る必要はありません
Beau線だけを消す薬はありません。大切なのは、なぜ爪の成長が一時的に低下したのかを考えることです。原因となった病気や栄養状態、皮膚疾患などがある場合には、そちらを治療します。すでに原因となった感染症などが治っている場合には、爪が伸びるのを待つことになります。爪の表面を削りすぎたり、無理に溝を平らにしようとしたりすると、かえって爪を傷つける可能性があるため注意しましょう。
Beau線と似ている「爪の横線」
爪の横線がすべてBeau線とは限りません。
Beau線
爪そのものが横方向に「へこんでいる」のが特徴です。触ると溝を感じることがあります。爪が伸びれば線も先端方向へ移動します。
Mees線(ミーズ線)
爪に横向きの白い線ができますが、基本的にはBeau線のような「へこみ」はありません。
Muehrcke線(ミュルケ線)
爪そのものではなく爪床の血流などによる白い線です。爪が伸びても位置が移動せず、指で圧迫すると薄くなるという特徴があります。
縦線
爪の根元から先端に向かう縦線はBeau線ではありません。年齢による変化などでもよくみられます。

病院を受診したほうがよい目安
Beau線と思われる変化だけがあり、線が少しずつ先端方向へ移動していて、数か月前の発熱や体調不良など明らかな原因がある場合には、急いで受診する必要がないケースも多くあります。一方で、原因がまったく思い当たらない、横溝が何度も繰り返して増えてくる、多くの爪に強い変形がある、爪がはがれてくる、爪の周囲に腫れ・痛み・膿がある、体重減少・長引く発熱・強い倦怠感など全身症状がある場合には、一度医療機関で相談するとよいでしょう。糖尿病や血流障害などの持病がある方、抗がん剤などの治療中の方も、爪の変化について主治医へ相談することをおすすめします。
Beau線を見つけたら「2〜3か月前」を振り返ってみましょう
Beau線は、今起きている病気ではなく、以前の体調変化が時間差で爪に現れていることが多いのが特徴です。爪に横線を見つけたら、「最近何か重大な病気になったのでは?」と心配するだけでなく、「1〜3か月前に高熱が出なかったか」「感染症にかからなかったか」「入院や手術をしなかったか」「爪を強くぶつけなかったか」などを思い出してみてください。原因がすでに解消していれば、爪は再び正常に伸び始めます。
まとめ|Beau線の多くは爪の成長とともに改善します
Beau線(ボー線)は、爪の成長が一時的に低下したことでできる横向きの溝です。高熱や感染症、強い体調不良、外傷、薬剤などさまざまな原因がありますが、線そのものが重大な病気を意味するわけではありません。特に、過去に発熱や感染症など明らかなきっかけがあり、その後元気に過ごしている場合には、正常な爪が伸びるにつれて徐々に消えていくケースが多くあります。一方、原因が分からない場合や、何度も繰り返す場合、ほかの症状を伴う場合には、背景に病気がないか医療機関で確認してもらいましょう。爪はゆっくり伸びるため、身体の変化が数週間〜数か月遅れて現れることがあります。「爪の横線=すぐに重大な病気」と考える必要はありませんが、爪からの小さなサインとして、ご自身の体調を振り返るきっかけにしてみてください。
参考文献
Lipner SR, Scher RK. Optimal diagnosis and management of common nail disorders.
Lee DK, Lipner SR. Beau’s Lines and Onychomadesis: A Systematic Review of Characteristics and Aetiology.
Yaemsiri S, Hou N, Slining MM, He K. Growth rate of human fingernails and toenails in healthy American young adults.
DermNet. Nail terminology.
Cleveland Clinic. Beau’s Lines: What It Looks Like, Causes & Treatment.

