子どものインフルエンザ脳症とは?症状・原因・治療・予防・受診の目安を医師が解説

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こどもの症状

インフルエンザというと、「高熱や咳が出る病気」というイメージが強いかもしれません。
多くの子どもは数日で回復しますが、まれに「インフルエンザ脳症」という重い合併症を起こすことがあります。

インフルエンザ脳症では、けいれんや意識障害、普段とは明らかに違う言動などが急速に現れ、重症の場合には脳のむくみや多臓器障害を起こし、後遺症や死亡につながることもあります。

特に重要なのは、発熱してから比較的早い時期、しばしば1~3日程度で神経症状が現れることです。また、基礎疾患のない健康な子どもにも起こる可能性があります。

この記事では、インフルエンザ脳症の症状、原因、治療、予防法、ワクチン、受診のタイミング、予後について最新の知見をもとに解説します。

インフルエンザ脳症とは?

インフルエンザ脳症とは、インフルエンザ感染をきっかけにして急激に脳の働きが障害される病気です。医学的には「インフルエンザ関連脳症(influenza-associated encephalopathy:IAE)」と呼ばれることがあります。

「脳炎」という言葉と似ていますが、インフルエンザ脳症では、インフルエンザウイルスが直接脳の中で増殖して脳を破壊するというより、感染に対して体の免疫反応が過剰に働くことが重要な原因と考えられています。

つまり、インフルエンザをきっかけとした全身の強い炎症反応によって脳の血管や血液脳関門(blood-brain barrier)が障害され、脳浮腫や神経機能障害が起こると考えられています。

インフルエンザ脳症はどんな子どもに起こる?

以前から乳幼児、とくに就学前の子どもに多いことが知られていますが、学童や思春期でも発症します。また、持病のある子どもだけの病気ではありません。2024~2025年シーズンに米国CDCへ報告された小児インフルエンザ関連脳症109例では、55%に明らかな基礎疾患がありませんでした

したがって、
「健康な子だから脳症にはならない」
とは言い切れません。

ただし、インフルエンザにかかった子どもの大部分が脳症になるわけではありません。
インフルエンザ脳症はまれではありますが、見逃すと危険な合併症として知っておくことが大切です。

インフルエンザ脳症の症状

最も重要なのは、意識状態や行動がいつもと明らかに違うことです。代表的な症状として、次のようなものがあります。

  • 呼びかけても反応が悪い
  • ぼーっとして会話が成立しない
  • 眠り込んでなかなか起きない
  • 意味のわからないことを話す
  • 幻覚のような訴えをする
  • 突然興奮したり暴れたりする
  • けいれんを起こす
  • けいれんを繰り返す
  • けいれん後も意識が戻らない
  • 手足の動きがおかしい
  • まっすぐ歩けない
  • 繰り返し嘔吐する
  • 強い頭痛を訴える

2024~25年の米国の報告では、インフルエンザ関連脳症の子どもの88%に意識状態の異常がみられていました。

発熱して何日目に起こる?

インフルエンザ脳症は、インフルエンザの経過のかなり早い段階で発症するのが特徴です。2024~25年のCDC報告では、神経症状が現れたのはインフルエンザ発症から中央値2日でした。
多くは発熱から1~3日程度の間に症状が出ています。

そのため、
「まだ発熱して1日目だから大丈夫」ではありません。

発熱後の最初の数日は、意識状態やけいれん、異常行動に注意してください。

熱性けいれんとインフルエンザ脳症はどう違う?

小さな子どもではインフルエンザによる高熱で「熱性けいれん」を起こすこともあります。
熱性けいれんと脳症は同じものではありません。

特徴 熱性けいれん インフルエンザ脳症を疑う所見
けいれん 多くは短時間で止まる 長時間続く、繰り返す
けいれん後 徐々に普段の状態へ戻る 意識がなかなか戻らない
会話・反応 回復後は通常に戻る 呼びかけへの反応が悪い
行動 通常は普段通りに戻る 意味不明な言動・異常行動が続く
経過 多くは良好 急速に悪化することがある

ただし、けいれん直後は一時的に眠ったり反応が鈍くなったりするため、家庭で完全に区別することはできません。

けいれんが5分以上続く、けいれんを繰り返す、けいれん後も意識が戻らない場合は救急受診が必要です。

「異常行動」があれば脳症なの?

必ずしもそうではありません。

インフルエンザそのものによって、一時的に興奮したり、突然走り出したり、意味のわからないことを話したりする異常行動がみられることがあります。

以前はタミフル(オセルタミビル)との関連が疑われましたが、現在では、抗インフルエンザ薬を使用していない場合や他の抗インフルエンザ薬でも異常行動が起こることがわかっています。

厚生労働省は、抗インフルエンザ薬を使用したかどうかにかかわらず、
少なくとも発熱から2日間は異常行動や転落事故に注意するよう呼びかけています。

窓や玄関を施錠する、できれば一人にしない、ベランダに面していない部屋で休ませるなどの対策を行いましょう。

インフルエンザ脳症の原因

インフルエンザ脳症の詳しい仕組みはまだ完全には解明されていません。

現在もっとも重視されているのは、インフルエンザ感染によって免疫反応が過剰になり、
IL-6、TNF-α、IL-1βなどの炎症性サイトカインが大量に産生される「過剰な炎症反応」です。

これによって血液脳関門が障害され、脳のむくみ、微小循環障害、神経細胞障害などが起こると考えられています。

また、一部の重症例では、ミトコンドリア機能や代謝の問題、遺伝的な体質が関与している可能性も指摘されています。

特に重症型の急性壊死性脳症(ANE:acute necrotizing encephalopathy)では、
RANBP2などの遺伝子との関連が知られています。

急性壊死性脳症(ANE)とは?

インフルエンザ関連脳症の中でも特に重症なタイプが急性壊死性脳症(ANE)です。

急激に意識障害やけいれんが進行し、MRIやCTで両側の視床などに特徴的な病変がみられることがあります。

2024~25年にCDCへ報告された109例のインフルエンザ関連脳症のうち37例がANEに分類され、
非常に重症な経過をとる例が確認されました。

インフルエンザ脳症はどうやって診断する?

インフルエンザ感染があり、けいれんや意識障害などの神経症状が出現した場合、インフルエンザ脳症を考えて検査を行います。

必要に応じて、次のような検査が行われます。

  • インフルエンザ抗原検査・PCR検査
  • 血液検査
  • 血糖・電解質・肝機能・腎機能
  • アンモニア
  • 凝固機能
  • 頭部CT
  • 頭部MRI
  • 脳波検査
  • 髄液検査

MRIは脳症のタイプや重症度を評価するために重要ですが、脳症であっても初期の画像検査が正常な場合があります。

そのため、「CTが正常だから絶対に脳症ではない」と判断できるわけではなく、症状と経過を合わせて判断します。

インフルエンザ脳症の治療

インフルエンザ脳症が疑われる場合は、原則として入院し、重症例では小児集中治療室(PICU)などで治療を行います。

1.全身状態を安定させる治療

まず重要なのは呼吸・循環を安定させ、脳への二次的なダメージを防ぐことです。

  • 酸素投与
  • 必要に応じた人工呼吸管理
  • 点滴
  • 血糖・電解質の管理
  • 体温管理
  • けいれんの治療
  • 脳浮腫・頭蓋内圧への対応
  • 多臓器障害への集中治療

2.抗インフルエンザ薬

オセルタミビル(タミフル)などの抗インフルエンザ薬が使用されます。日本小児科学会は、幼児や重症化リスクが高い子どもでは抗インフルエンザ薬の早期投与を推奨しています。

ただし、
抗インフルエンザ薬を飲めばインフルエンザ脳症を確実に予防できる、あるいは脳症を治せるということが証明されているわけではありません。

一方、重症インフルエンザでは早期の抗ウイルス治療が重要であり、脳症が疑われる場合にも速やかに治療が開始されます。

3.ステロイドなどの免疫治療

重症例、とくに急性壊死性脳症などでは、

  • ステロイドパルス療法
  • 免疫グロブリン療法
  • 血漿交換
  • その他の免疫調整治療

などが行われることがあります。しかし、インフルエンザ脳症全体について、これらの治療が確実に予後を改善することはまだ十分には証明されていません。そのため、病型や重症度を評価しながら専門施設で治療方法が選択されます。

解熱剤は何を使えばいい?

子どものインフルエンザに対する解熱鎮痛薬としては、一般にアセトアミノフェンが第一選択です。

一方、アスピリンなどのサリチル酸系薬剤は、インフルエンザなどのウイルス感染時にライ症候群との関連があるため、小児には使用しません。

また、ジクロフェナクやメフェナム酸については、過去のインフルエンザ脳症患者の調査で予後不良との関連が指摘されており、インフルエンザ脳症では使用しません。

家庭にある大人用の解熱鎮痛薬を自己判断で子どもに飲ませるのは避けましょう。

インフルエンザ脳症を予防するには?

インフルエンザ脳症だけを100%防ぐ方法はありません。

最も重要なのは、
そもそもインフルエンザにかかる可能性と、インフルエンザが重症化する可能性を減らすことです。

インフルエンザワクチン

インフルエンザワクチンは、感染を完全に防ぐワクチンではありません。しかし、インフルエンザの発症や入院、重症化を減らすことが知られています。そのため、インフルエンザ脳症のような重い合併症を予防するうえでも重要な対策です。2024~25年にCDCへ報告された小児インフルエンザ関連脳症では、ワクチン接種状況が確認できた接種対象児のうち、当該シーズンのワクチンを接種していたのは16%でした。ただし、この数字だけで「ワクチンが脳症を84%予防する」と解釈することはできません。インフルエンザ脳症だけを対象としたワクチン有効率にはまだ十分なデータがありません。それでも、インフルエンザ感染そのものや重症化を減らすという観点から、毎年のインフルエンザワクチンは重要な予防手段と考えられています。

日常生活での感染予防

  • 手洗い
  • 咳エチケット
  • 流行時の適切なマスク使用
  • 換気
  • 人混みを避ける
  • 十分な睡眠と休養

などの基本的な感染対策も大切です。

インフルエンザで救急受診すべき症状

インフルエンザにかかった子どもに次のような症状がみられた場合は、脳症を含む重症合併症を考え、速やかに医療機関を受診してください。

症状 対応
けいれんが5分以上続く 救急要請を検討
けいれんを繰り返す 救急受診
けいれん後も意識が戻らない 救急受診
呼びかけても反応が悪い 救急受診
起こしてもすぐ眠ってしまう 早急に受診
意味不明な言動が続く 早急に受診
異常行動が強い・繰り返す 早急に受診
手足が動かしにくい・歩けない 救急受診
呼吸が苦しい・唇が紫色 救急要請
繰り返す嘔吐や水分が全く取れない 早急に受診

特に、「熱の高さ」そのものよりも、「意識や反応が普段と違うか」
をよく観察してください。

インフルエンザ脳症の予後

インフルエンザ脳症の予後は病型や重症度によって大きく異なります。軽症で完全に回復する子どもがいる一方、重症例では運動障害、知的障害、てんかんなどの神経学的後遺症が残ることがあります。2024~25年に米国CDCへ報告された109例では、74%が集中治療室に入院し、19%が死亡しました。さらに重症型の急性壊死性脳症(ANE)では死亡率が41%でした。ただし、これはCDCへ報告された比較的重症な症例を中心としたデータであり、インフルエンザに感染した子どもの19%が死亡するという意味ではありません。インフルエンザ脳症そのものがまれであり、その中でもANEなどの重症型はさらに限られます。一方で、ひとたび重症化すると短時間で状態が悪化する可能性があるため、早期発見と早期の集中治療が非常に重要です。

よくある質問

Q.高熱が出ると脳症になるのでしょうか?

高熱そのものだけが原因で脳症になるわけではありません。インフルエンザに対する過剰な免疫反応や炎症反応などが関与すると考えられています。

Q.タミフルを飲めば脳症を防げますか?

抗インフルエンザ薬にはインフルエンザの症状を短縮し、重症化リスクを低下させる効果が期待されますが、脳症を100%予防できることが証明されているわけではありません。

Q.インフルエンザワクチンを打っても脳症になりますか?

ワクチンを接種していてもインフルエンザに感染することはあるため、脳症のリスクを完全にゼロにはできません。ただし、感染や重症化そのものを減らすことから、重要な予防手段と考えられます。

Q.一度だけ変なことを言いました。脳症でしょうか?

発熱に伴って一時的なせん妄や異常行動が起こることもあり、一度の異常行動だけで脳症とは限りません。ただし、呼びかけへの反応が悪い、意味不明な状態が続く、けいれんを伴うなどの場合は早急に受診してください。

Q.解熱剤で脳症を予防できますか?

解熱すること自体でインフルエンザ脳症を予防できることは証明されていません。解熱剤はつらさを和らげる目的で使用し、小児では一般にアセトアミノフェンを使用します。

まとめ|インフルエンザでは「熱」だけでなく「意識」をみる

インフルエンザ脳症はまれな合併症ですが、健康な子どもにも起こる可能性があり、重症化すると命に関わることがあります。特に注意したいのは、インフルエンザ発症後の最初の数日間です。

「呼びかけに反応しない」
「けいれんを繰り返す」
「けいれん後も意識が戻らない」
「意味不明な言動が続く」
「普段とは明らかに様子が違う」

このような症状があれば、夜間や休日であっても医療機関への受診をためらわないでください。

また、インフルエンザワクチンは脳症を100%防ぐものではありませんが、インフルエンザそのものや重症化を減らす重要な方法です。
毎年のワクチン接種と、発熱後数日間の丁寧な観察が大切です。


※本記事は一般的な医療情報を提供するものであり、個々の患者さんの診断や治療に代わるものではありません。お子さんの意識状態がおかしい、けいれんが続くなどの症状がある場合は、記事を読むより先に医療機関へご相談ください。

参考文献・関連情報

  1. 日本小児科学会「2025/26シーズンのインフルエンザ治療・予防指針」
  2. 厚生労働省「令和7年度 急性呼吸器感染症(ARI)総合対策に関するQ&A」
  3. CDC:Pediatric Influenza-Associated Encephalopathy and Acute Necrotizing Encephalopathy — United States, 2024–25 Influenza Season
  4. Hasegawa H. Pathophysiology of Influenza Encephalopathy. Brain Nerve. 2026.
  5. Influenza-Associated Acute Necrotizing Encephalopathy in US Children. JAMA. 2025.
  6. Characteristics and Outcomes of Influenza-Associated Encephalopathy Cases Among Children and Adults in Japan
  7. 日本小児神経学会「インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?」
  8. 日本小児科学会「インフルエンザ脳炎・脳症における解熱剤の影響について」

この記事について

この記事は、公的機関・診療ガイドライン・医学論文などを参考に作成しています。

本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断や治療を代替するものではありません。 気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

執筆者:小林 知貴
所属:いしうちファミリークリニック 院長
資格:医学博士/家庭医療専門医/総合診療専門医/総合内科専門医

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