SFTS(重症熱性血小板減少症候群)は、主にマダニに咬まれることで感染するウイルス感染症です。発熱や強いだるさ、下痢・嘔吐などの症状から始まり、重症化すると意識障害や出血傾向、多臓器不全を起こすことがあります。
「マダニに咬まれたかもしれない」「数日後から熱が出てきた」という方にとって、SFTSはとても不安な病気です。ただし、マダニに咬まれた人すべてがSFTSになるわけではありません。大切なのは、咬まれた後の体調変化を知り、必要なタイミングで医療機関を受診することです。

この記事でわかること
- SFTSとはどのような病気か
- マダニに咬まれた後に注意すべき症状
- SFTSの潜伏期間と重症化のサイン
- 検査・診断・治療法
- マダニに咬まれないための予防法
- 医療機関を受診すべきタイミング
1.SFTS(重症熱性血小板減少症候群)とは?
SFTSは、正式には重症熱性血小板減少症候群と呼ばれる感染症です。英語名のSevere Fever with Thrombocytopenia Syndromeの頭文字をとってSFTSと呼ばれます。
SFTSは、SFTSウイルスによって起こる病気で、主にウイルスを持ったマダニに咬まれることで感染します。日本では2013年に初めて患者が確認され、その後も西日本を中心に毎年報告されています。近年は東日本でも報告があり、野山や草むらに入る機会がある方は地域にかかわらず注意が必要です。
感染症法では四類感染症に分類されており、診断された場合は医師による届出が必要です。
SFTSが注意すべき病気である理由
- 発熱・倦怠感・下痢など、最初は風邪や胃腸炎のように見えることがある
- 高齢者や基礎疾患のある方では重症化しやすい
- 血小板や白血球が減少し、出血傾向や多臓器不全を起こすことがある
- 致命率が高い感染症のひとつである
- まれに感染した動物や患者の血液・体液から感染することがある
ただし、SFTSはインフルエンザや新型コロナウイルスのように、日常生活の中で簡単に人から人へ広がる感染症ではありません。多くはマダニに咬まれることがきっかけになります。
2.マダニに咬まれたらSFTSになる?
マダニに咬まれたからといって、必ずSFTSになるわけではありません。SFTSは、SFTSウイルスを持っているマダニに咬まれた場合に感染する可能性があります。一方で、マダニに咬まれた後に以下のような症状が出た場合は注意が必要です。
- 発熱
- 強いだるさ
- 食欲不振
- 吐き気・嘔吐
- 下痢・腹痛
- 頭痛・筋肉痛
- 意識がぼんやりする
- 出血斑、血尿、血便
特に、マダニに咬まれてから6日〜2週間程度の間に発熱や消化器症状が出た場合は、早めに医療機関へ相談してください。
受診時に必ず伝えてほしいこと
- いつマダニに咬まれたか
- どこで咬まれた可能性があるか
- 山、畑、草むら、キャンプ、農作業などの活動歴
- マダニを自分で取ったか、まだ皮膚についているか
- 発熱・下痢・嘔吐・倦怠感などの症状がいつからあるか
- ペットや野生動物との接触があったか
3.SFTSの潜伏期間と症状
SFTSの潜伏期間は、一般的にマダニに咬まれてから6日〜14日程度とされています。症状は突然の発熱や強い倦怠感から始まることが多く、消化器症状を伴いやすいのが特徴です。
初期に多い症状
- 発熱
- 全身のだるさ
- 食欲不振
- 吐き気・嘔吐
- 下痢・腹痛
- 頭痛
- 筋肉痛
初期症状だけでは、胃腸炎、インフルエンザ、新型コロナウイルス感染症、他のウイルス感染症などと区別が難しいことがあります。そのため、「マダニに咬まれた可能性があるかどうか」が診断の重要な手がかりになります。
重症化した場合の症状
- 意識障害
- けいれん
- 出血傾向:皮下出血、血尿、血便、吐血など
- リンパ節の腫れ
- 呼吸状態の悪化
- 肝機能障害・腎機能障害
- 多臓器不全
特に高齢者、免疫力が低下している方、持病がある方では重症化しやすいため注意が必要です。
4.SFTSの原因と感染経路
SFTSの主な原因は、SFTSウイルスを保有したマダニに咬まれることです。マダニは、家庭内にいる小さなダニとは異なり、草むら、山林、畑、河川敷、野生動物がいる場所などに生息する比較的大きなダニです。
マダニが多い場所
- 山林
- 草むら
- 畑
- 河川敷
- キャンプ場
- 野生動物が出入りする場所
- 庭や公園の草地
マダニの活動時期
マダニは春から秋にかけて活動が活発になります。特に春〜秋、なかでも5月〜10月頃は注意が必要です。ただし、地域や気候によっては冬でも活動することがあります。
マダニ以外の感染経路
SFTSは主にマダニから感染しますが、以下のような感染経路も報告されています。
- SFTSを発症した犬や猫などの動物の血液・体液との接触
- SFTS患者の血液・体液との濃厚接触
- 獣医療従事者や医療従事者の感染事例
特に、体調の悪い野良猫や野生動物には不用意に触れないようにしましょう。ペットが発熱、元気がない、食欲がないなどの症状を示す場合は、動物病院に相談してください。
5.マダニに咬まれたときの対応
マダニに咬まれたときに大切なのは、無理に引き抜かないことです。マダニは皮膚にしっかり食い込んで吸血するため、無理に取ろうとすると口の部分が皮膚に残ったり、マダニの体液が体内に押し込まれたりする可能性があります。
やってはいけないこと
- 指でつぶす
- 無理に引っ張って取る
- 火であぶる
- アルコールや薬品を自己判断でかける
- 針でほじる
おすすめの対応
- マダニが皮膚についている場合は、できるだけ医療機関で除去してもらう
- すでに取れている場合は、咬まれた日を記録する
- 咬まれた部位の赤み、腫れ、痛みを観察する
- 2週間程度は発熱や下痢、倦怠感などに注意する
- 症状が出た場合は、マダニに咬まれたことを医師に伝える
マダニに咬まれた直後に症状がなくても、数日後に発熱や体調不良が出ることがあります。「咬まれた日」と「症状が出た日」をメモしておくと診療に役立ちます。
6.SFTSの検査と診断
SFTSを疑う場合、まずは診察で症状やマダニに咬まれた可能性、屋外活動歴、動物との接触歴などを確認します。そのうえで血液検査やウイルス検査を行います。
血液検査でみられる異常
- 白血球減少
- 血小板減少
- AST・ALT上昇:肝機能障害
- LDH上昇
- CK上昇
- 腎機能障害
- 炎症反応の上昇
SFTSを確定する検査
- PCR検査:SFTSウイルスの遺伝子を調べる検査
- 抗体検査:感染後に上昇する抗体を確認する検査
これらの検査は、一般のクリニック内ですぐに結果が出るものではなく、保健所や地方衛生研究所などと連携して行われることがあります。SFTSが疑われる場合は、早めに専門的な対応が可能な医療機関へ紹介となることがあります。
7.SFTSの治療法|ファビピラビルが承認されています
以前は、SFTSに対する治療は輸液や全身管理などの対症療法が中心でした。しかし、現在はファビピラビル(アビガン®)がSFTSに対する抗ウイルス薬として国内で承認されています。
ファビピラビルは、SFTSに対する世界初の抗ウイルス薬として日本で承認された薬です。治療効果を高めるためには、できるだけ早い段階で診断し、早期に治療を開始することが重要とされています。
主な治療内容
- ファビピラビルによる抗ウイルス治療
- 輸液:脱水や電解質異常の補正
- 解熱・疼痛管理
- 肝機能・腎機能の管理
- 血小板減少や出血傾向への対応
- 二次感染への対応
- 重症例では集中治療
ファビピラビルはすべての医療機関で自由に処方できる薬ではなく、専門的な判断と管理が必要です。また、妊娠中または妊娠の可能性がある方では使用に注意が必要な薬です。SFTSが疑われる場合は、感染症診療に対応できる医療機関での評価が必要になります。
重要:SFTSは早期受診が大切です
マダニに咬まれた後に、発熱、強い倦怠感、下痢、嘔吐などが出た場合は、「様子を見すぎない」ことが大切です。SFTSは重症化することがあり、早期に診断して治療につなげる必要があります。
8.この症状があれば早めに受診してください
マダニに咬まれた、または草むら・山林・畑などに入った後に、以下の症状がある場合は医療機関を受診してください。
早めに受診した方がよい症状
- 38℃以上の発熱
- 強い倦怠感
- 食欲がない
- 吐き気・嘔吐
- 下痢・腹痛
- 頭痛や筋肉痛が強い
- リンパ節が腫れている
救急受診を考える症状
- 意識がぼんやりする
- 呼びかけへの反応が悪い
- けいれんがある
- 血尿・血便・吐血がある
- 紫斑や出血斑が出てきた
- 息苦しい
- 水分が取れない
受診時には、「マダニに咬まれたかもしれない」と必ず伝えてください。咬まれたことに気づいていない場合でも、山や草むら、畑、キャンプ、農作業、庭仕事などの活動歴が診断の手がかりになります。
9.SFTSの予防法|マダニに咬まれないことが最も大切
SFTSを防ぐうえで最も重要なのは、マダニに咬まれないことです。現時点で、一般の方がSFTSを予防するために使用できるワクチンはありません。そのため、野外活動時の服装や虫よけ対策が重要です。
屋外活動時の服装
- 長袖・長ズボンを着用する
- 首元をタオルなどで覆う
- シャツの裾をズボンに入れる
- ズボンの裾を靴下や長靴の中に入れる
- 帽子や手袋を使用する
- 明るい色の服を選び、マダニを見つけやすくする
虫よけの使用
マダニ対策には、ディート(DEET)やイカリジンを含む虫よけ剤が有効です。使用する際は、製品の説明書をよく読み、年齢や使用回数の制限を守ってください。
帰宅後に行うこと
- 服についたマダニを確認する
- すぐに入浴・シャワーをする
- 首、わき、足の付け根、膝の裏、頭皮などを確認する
- 屋外で着た服は早めに洗濯する
- ペットの体にもマダニがついていないか確認する
マダニは目立たない場所に付着することがあります。特に、わき、足の付け根、膝の裏、腰回り、頭皮などは見落としやすいため注意しましょう。
10.ペットや野良猫からの感染にも注意
SFTSはマダニだけでなく、SFTSを発症した犬や猫などの動物から人へ感染したと考えられる事例も報告されています。特に、体調の悪い野良猫や野生動物には不用意に触れないようにしましょう。
注意したい動物の症状
- 元気がない
- 食欲がない
- 発熱している
- 嘔吐・下痢がある
- 出血がある
- ぐったりしている
ペットにマダニがついている場合や、ペットの体調不良がある場合は、動物病院に相談してください。動物の血液、唾液、排泄物、吐物に触れる場合は、手袋を使い、接触後は手洗いを徹底しましょう。
11.SFTSについてよくある質問
Q1.マダニに咬まれたらすぐに血液検査をした方がいいですか?
咬まれた直後で症状がない場合、すぐにSFTSの診断ができるとは限りません。まずは咬まれた日を記録し、2週間程度は発熱や下痢、倦怠感などの症状に注意してください。症状が出た場合は早めに医療機関を受診しましょう。
Q2.マダニを自分で取ってしまいました。大丈夫ですか?
すでに取れている場合は、咬まれた部位の赤みや腫れ、発熱などの全身症状に注意してください。マダニの一部が皮膚に残っている、赤みが強い、痛みがある、発熱がある場合は医療機関を受診してください。
Q3.SFTSは人から人へうつりますか?
通常の日常生活で簡単に人から人へうつる感染症ではありません。ただし、SFTS患者の血液や体液に直接触れたことによる感染事例が報告されています。医療・介護・看護の場では標準予防策が重要です。
Q4.SFTSのワクチンはありますか?
現時点で、一般の方がSFTS予防のために接種できるワクチンはありません。予防の基本は、マダニに咬まれないための服装、虫よけ、帰宅後の確認です。
Q5.治療薬はありますか?
現在は、SFTSに対してファビピラビル(アビガン®)が国内で承認されています。ただし、専門的な判断が必要な薬であり、SFTSが疑われる場合は早期に医療機関で評価を受けることが重要です。
12.まとめ|マダニに咬まれた後の発熱・下痢・強い倦怠感は要注意
SFTSは、主にマダニに咬まれることで感染するウイルス感染症です。マダニに咬まれたからといって必ず感染するわけではありませんが、咬まれた後6日〜2週間程度で発熱、強い倦怠感、下痢、嘔吐などが出た場合は注意が必要です。
現在はSFTSに対する抗ウイルス薬としてファビピラビルが承認されており、早期診断・早期治療が以前よりも重要になっています。
野外活動、農作業、庭仕事、キャンプ、登山などの後に体調不良が出た場合は、医療機関を受診し、「マダニに咬まれた可能性がある」ことを必ず伝えてください。
受診の目安
マダニに咬まれた後、または草むら・山林・畑などに入った後に、発熱、下痢、嘔吐、強い倦怠感がある場合は、早めに医療機関へご相談ください。
参考文献
- 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)について」
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)重症熱性血小板減少症候群(SFTS)についてお伝えしています - 厚生労働省「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A」
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に関するQ&A - 国立健康危機管理研究機構「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」
404 Not Found - 国立健康危機管理研究機構 IASR「SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)」
SFTSに対するファビピラビルの承認と現状について(2025年)|国立健康危機管理研究機構 感染症情報提供サイト - 日本感染症学会「重症熱性血小板減少症候群」
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome、SFTS)症状からアプローチするインバウンド感染症への対応 - 感染症クイック・リファレンス|日本感染症学会

