セリアック病とは?症状・原因・検査・治療とグルテンフリー食をわかりやすく解説

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病気について

「パンや麺を食べるとお腹の調子が悪くなる」

「下痢や腹部膨満が続いているが、検査では異常が見つからない」

「鉄欠乏性貧血を繰り返している」

このような症状の原因として、海外では比較的よく知られているのがセリアック病です。セリアック病は、単なる「小麦が体に合わない状態」ではありません。小麦などに含まれるグルテンに対する免疫反応によって小腸の粘膜が傷つく、慢性の自己免疫疾患です。欧米では人口の約1%にみられるとされますが、日本人ではまれと考えられてきました。しかし、日本でもセリアック病は存在し、慢性的な下痢や原因不明の貧血、体重減少、骨粗しょう症などをきっかけに診断されることがあります。

この記事の重要ポイント

  • セリアック病は、グルテンによって小腸が障害される自己免疫疾患です。
  • 日本人では欧米より少ないものの、国内でも患者が報告されています。
  • 診断前にグルテンフリー食を始めると、血液検査や生検が偽陰性になることがあります。
  • 治療の基本は、生涯にわたる厳格なグルテンフリー食です。
  • 「小麦不使用」と「グルテンフリー」は、必ずしも同じ意味ではありません。

1.セリアック病とは

セリアック病は、遺伝的な素因を持つ人が小麦・大麦・ライ麦などに含まれるグルテンを摂取した際に、免疫反応によって小腸粘膜に炎症が起こる病気です。炎症が続くと、小腸の表面にある絨毛(じゅうもう)と呼ばれる細かな突起が萎縮します。絨毛は栄養を吸収するために重要な構造であり、萎縮すると鉄、葉酸、カルシウム、ビタミンDなどを十分に吸収できなくなります。その結果、下痢や腹痛だけでなく、鉄欠乏性貧血、骨粗しょう症、倦怠感、体重減少、成長障害など、消化管以外にもさまざまな症状が現れます。セリアック病は、次のような特徴を持つ病気です。

  • グルテンをきっかけに発症する
  • 自己免疫反応が関与する
  • 小腸粘膜に炎症と絨毛萎縮が起こる
  • 消化器症状がなくても発症していることがある
  • 基本的には生涯にわたるグルテン除去が必要になる

2.グルテンとは

グルテンとは、小麦などの穀物に含まれる複数のたんぱく質の総称です。小麦粉に水を加えてこねると、弾力や粘りが生まれますが、この性質を作るのがグルテンです。パンがふくらむ、うどんにコシが出る、パスタが弾力を保つといった性質にもグルテンが関係しています。セリアック病との関連で問題になる主な穀物は、次のとおりです。

穀物 主な関連たんぱく質 セリアック病での扱い
小麦 グリアジンなど 除去が必要
大麦 ホルデイン 除去が必要
ライ麦 セカリン 除去が必要
ライ小麦 小麦・ライ麦由来たんぱく質 除去が必要
オーツ麦 アベニン 多くの患者では摂取可能だが、混入と個人差に注意

オーツ麦そのものは多くのセリアック病患者が摂取できるとされていますが、栽培、輸送、製造の過程で小麦や大麦が混入しやすいことが問題になります。摂取する場合は、一般的なオートミールではなく、グルテンフリーとして管理された製品を選び、主治医や管理栄養士に相談することが大切です。

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3.セリアック病の有病率

世界ではどのくらい多い?

世界の研究をまとめたシステマティックレビューでは、セリアック病の有病率は、血清抗体検査に基づく場合で約1.4%、十二指腸生検で確認された場合で約0.7%と報告されています。ただし、有病率は地域や人種、年齢、性別によって異なります。ヨーロッパ、北米、中東、インドなどでは比較的多く、東アジアでは少ない傾向があります。

日本人ではセリアック病は少ない?

日本では、セリアック病は欧米よりかなり少ないと考えられています。日本人の非臨床集団2,008人を対象にした国内研究では、生検によって診断されたセリアック病は1人で、有病率は0.05%でした。また、慢性的な腹部症状を訴える47人のうち1人が診断されています。別の国内成人スクリーニング研究でも、セリアック病関連抗体の陽性率は低い結果でした。日本人でセリアック病が少ない理由として、次の要因が考えられています。

  • 発症に関係するHLA-DQ2やHLA-DQ8の保有率が欧米より低い
  • 伝統的な日本食では米が主食であり、小麦摂取量が比較的少なかった
  • 疾患の認知度が低く、診断されていない患者がいる可能性がある
  • 腹部症状が過敏性腸症候群などとして扱われている可能性がある

「日本人には起こらない病気」ではありません

国内研究は対象人数が限られており、日本全体の正確な有病率はまだ明らかではありません。日本人であっても、特徴的な症状や関連疾患があれば検査を検討する必要があります。

4.セリアック病の原因と発症メカニズム

セリアック病は、単一の原因だけで発症するわけではありません。主に遺伝的素因、グルテン摂取、免疫反応が組み合わさって発症します。

遺伝的素因

セリアック病患者の大部分は、HLA-DQ2またはHLA-DQ8という遺伝的特徴を持っています。ただし、HLA-DQ2やHLA-DQ8を持っている人が全員発症するわけではありません。これらは「セリアック病になりやすい体質」を示すものであり、陽性だけでセリアック病と診断することはできません。一方、HLA-DQ2とHLA-DQ8のいずれも持たない場合、セリアック病の可能性は非常に低くなります。そのため、すでにグルテンフリー食を始めてしまった場合や、血液検査と生検の結果が一致しない場合に、診断を除外する目的でHLA検査が使われることがあります。

グルテンと組織トランスグルタミナーゼ

小腸に入ったグルテンの一部は、組織トランスグルタミナーゼ(tTG、TG2)という酵素によって変化します。遺伝的素因を持つ人では、変化したグルテン由来ペプチドが免疫細胞に提示され、T細胞を中心とした免疫反応が起こります。その結果、小腸粘膜に炎症が生じ、絨毛萎縮や陰窩過形成が起こります。

環境因子

腸内細菌叢、消化管感染症、免疫系の成熟など、さまざまな環境因子が発症に関係する可能性が研究されています。ただし、特定の食品や生活習慣だけが発症原因になるわけではなく、現時点で確実な予防法は確立していません。

5.セリアック病の症状

セリアック病の症状は非常に多彩です。典型的な下痢や体重減少がなく、貧血や骨粗しょう症だけを認めることもあります。

消化器症状

  • 慢性的な下痢
  • 脂肪便
  • 腹痛
  • 腹部膨満感
  • おならが多い
  • 吐き気、嘔吐
  • 便秘
  • 食欲低下
  • 体重減少

消化管以外の症状

  • 原因不明の鉄欠乏性貧血
  • 慢性的な倦怠感
  • 骨密度低下、骨粗しょう症
  • 口内炎を繰り返す
  • 頭痛
  • 手足のしびれ
  • 肝機能異常
  • 月経異常
  • 不妊や流産との関連
  • 歯のエナメル質形成不全
  • かゆみの強い水疱性皮疹

セリアック病に関連する代表的な皮膚症状が、疱疹状皮膚炎です。肘、膝、臀部などに左右対称の強いかゆみを伴う小さな水疱や発疹が現れます。

子どもの症状

  • 体重が増えない
  • 身長の伸びが悪い
  • 慢性的な下痢や便秘
  • お腹が張る
  • 食欲不振
  • 不機嫌
  • 思春期の遅れ
  • 原因不明の貧血

小児では、消化器症状よりも成長障害が目立つことがあります。

6.セリアック病になりやすい人

次のような人では、一般人口よりセリアック病のリスクが高いとされています。

  • セリアック病患者の一親等家族
  • 1型糖尿病のある人
  • 自己免疫性甲状腺疾患のある人
  • 選択的IgA欠損症のある人
  • ダウン症候群のある人
  • ターナー症候群のある人
  • 原因不明の鉄欠乏性貧血がある人
  • 原因不明の骨粗しょう症や骨折がある人
  • 原因不明の肝機能異常が続く人
  • 慢性的な下痢、体重減少、吸収不良がある人

家族に患者がいる場合でも、症状がないことがあります。検査の必要性や検査間隔については、消化器内科や小児科で相談しましょう。

7.セリアック病の診断

重要:検査前にグルテンフリー食を始めないでください

グルテンを除去すると、セリアック病に関連する抗体が低下し、小腸粘膜も回復し始めます。その結果、本当はセリアック病であっても血液検査や生検が陰性になることがあります。

① 問診

症状、体重変化、貧血の有無、家族歴、自己免疫疾患の有無、現在の食事内容などを確認します。すでに自己判断で小麦やグルテンを除去している場合は、除去を始めた時期や、除去前にどの程度摂取していたかを医師に伝えることが重要です。

② 血液検査

最初に行われることが多い検査は、次の2つです。

  • 抗組織トランスグルタミナーゼIgA抗体(抗tTG-IgA抗体)
  • 総IgA値

抗tTG-IgA抗体は、セリアック病のスクリーニングとして中心的な検査です。ただし、IgA欠損症があると抗tTG-IgA抗体が陰性になる可能性があるため、総IgA値も同時に確認します。IgA欠損症がある場合には、抗tTG-IgG抗体や脱アミド化グリアジンペプチドIgG抗体など、IgGを利用した検査が検討されます。血液検査だけで自己判断せず、症状、抗体価、内視鏡所見、病理所見を総合して診断します。

③ 上部消化管内視鏡と十二指腸生検

成人では、血液検査でセリアック病が疑われた場合、上部消化管内視鏡検査を行い、十二指腸から複数の組織を採取する方法が標準的です。病理検査では、主に次の所見を確認します。

  • 小腸絨毛の萎縮
  • 陰窩過形成
  • 上皮内リンパ球の増加

病変には部分的な偏りがあるため、十二指腸球部と下行部などから複数の生検を行うことが重要です。

生検をせずに診断できることはある?

2025年の欧州成人診断ガイドラインでは、信頼性の高い検査法で抗tTG-IgA抗体が基準値上限の10倍以上となる一部の成人について、専門医の管理下で生検を省略する診断方法が条件付きで示されました。ただし、すべての患者に適用できるわけではありません。日本では検査体制や診療経験も施設によって異なるため、成人では依然として十二指腸生検による確認が重要です。

④ HLA-DQ2・HLA-DQ8検査

HLA検査は、セリアック病を積極的に確定する検査ではありません。HLA-DQ2またはHLA-DQ8が陽性でも、それだけで診断はできないためです。一方、両方とも陰性であればセリアック病の可能性は非常に低くなるため、次のような場合に役立ちます。

  • すでにグルテンフリー食を続けている
  • 血液検査と生検の結果が一致しない
  • 過去の診断が不明確
  • グルテン負荷試験を行うか判断したい

すでにグルテンフリー食を始めている場合

すでにグルテンを除去している場合、抗体検査や生検が正常化している可能性があります。必要に応じて、HLA検査や、医師の管理下で一定期間グルテンを摂取するグルテン負荷試験が検討されます。症状が強い人が自己判断でグルテンを再開するのは避け、消化器専門医に相談してください。

8.セリアック病と似た病気との違い

病気・状態 主な仕組み 主な検査 食事対応
セリアック病 グルテンによる自己免疫反応 抗tTG抗体、総IgA、十二指腸生検など 生涯にわたる厳格なグルテン除去
小麦アレルギー 主にIgEを介したアレルギー反応 特異的IgE、皮膚テスト、負荷試験など 原因となる小麦の除去
非セリアック性グルテン・小麦過敏症 機序は完全には解明されていない セリアック病と小麦アレルギーを除外 症状を見ながら調整
過敏性腸症候群 腸脳相関、腸管運動、知覚過敏など 症状と他疾患の除外 低FODMAP食などを個別に検討

小麦アレルギーとの違い

小麦アレルギーでは、摂取後比較的短時間で、じんましん、咳、息苦しさ、嘔吐、血圧低下などが起こることがあります。運動と組み合わさって症状が現れる小麦依存性運動誘発アナフィラキシーもあります。セリアック病はIgE型食物アレルギーとは異なり、主に慢性的な免疫反応によって小腸が障害されます。

非セリアック性グルテン・小麦過敏症との違い

セリアック病や小麦アレルギーではないにもかかわらず、小麦を食べると腹痛、膨満感、下痢、倦怠感などが出る人がいます。この状態は、非セリアック性グルテン過敏症、または非セリアック性小麦過敏症と呼ばれます。ただし、症状の原因がグルテンそのものではなく、小麦に含まれるフルクタンなどのFODMAP、ほかの小麦成分である場合もあります。診断前には、まずセリアック病と小麦アレルギーを除外することが重要です。

9.セリアック病の治療

治療の基本は生涯にわたるグルテンフリー食

セリアック病の標準治療は、小麦、大麦、ライ麦などに由来するグルテンを生涯にわたって除去することです。グルテンフリー食によって、多くの患者では症状が改善し、小腸粘膜も徐々に回復します。ただし、症状が改善しても少量のグルテンで粘膜障害が続くことがあるため、「症状が出なければ少しくらい食べてもよい」というわけではありません。

栄養不足の評価と補充

診断時には、吸収不良によって次の栄養素が不足していることがあります。

  • 葉酸
  • ビタミンB12
  • カルシウム
  • ビタミンD
  • 亜鉛

血液検査などで不足を確認し、必要に応じて食事指導や補充療法を行います。小腸粘膜の障害によって一時的な乳糖不耐症を伴うこともあります。この場合、治療初期に乳製品で腹痛や下痢が起こりやすくなることがありますが、小腸が回復すると摂取できるようになる場合があります。

薬による治療はある?

現在の標準治療を置き換える承認薬はなく、グルテンフリー食が治療の中心です。グルテン分解酵素、腸管バリアを調節する薬、免疫反応を抑える薬、免疫寛容を誘導する治療などが研究されていますが、一般診療でグルテンフリー食の代わりに使用できる段階には至っていません。将来的に薬が承認された場合も、まずはグルテンフリー食に追加する補助療法として用いられる可能性があります。

10.グルテンを含む食品・含まない食品

原則として避ける食品

  • 一般的なパン、菓子パン
  • うどん、そうめん、ラーメン
  • 一般的なパスタ
  • 小麦粉を使ったケーキ、クッキー
  • 天ぷら、フライの衣
  • 小麦粉を使ったお好み焼き、たこ焼き
  • 一般的なカレーやシチューのルウ
  • 大麦、押し麦、もち麦
  • 麦芽、モルトを含む食品
  • 一般的なビール、発泡酒、麦芽飲料
  • ライ麦パン

原材料を確認したい食品

  • しょうゆ、たれ、ドレッシング
  • みそ、調味みそ
  • だし、スープ、コンソメ
  • 加工肉、ハンバーグ、ミートボール
  • かまぼこなどの練り製品
  • アイスクリーム、菓子類
  • 調味されたポテトチップス
  • そば
  • 健康食品やサプリメント

一般的なしょうゆには原材料として小麦が使われることがあります。そばも、十割そば以外はつなぎとして小麦粉が使われていることが多く、十割そばであっても製造設備やゆで湯から小麦が混入する可能性があります。

自然にグルテンを含まない食品

  • 米、玄米
  • とうもろこし
  • いも類
  • 豆類
  • そば粉そのもの
  • 肉、魚
  • 野菜、果物
  • 牛乳、乳製品
  • ナッツ類
  • キヌア、アマランサス

ただし、加工、調味、製造工程でグルテンが加わることがあります。「本来グルテンを含まない食品」であっても、加工食品では原材料表示を確認してください。

11.グルテンフリー食で注意したい交差接触

セリアック病では、食品の原材料だけでなく、調理中の交差接触・コンタミネーションにも注意が必要です。代表的な例には、次のようなものがあります。

  • パンと共用しているトースター
  • 小麦粉料理に使ったまな板や包丁
  • パン粉が入ったバター、ジャム
  • 天ぷらやフライと共用している揚げ油
  • 小麦粉を扱う調理場
  • うどんと同じゆで湯で調理した麺
  • そば店での製麺・調理設備の共用

家庭内では、トースター、ざる、木製の調理器具、バターなどを分ける必要がある場合があります。外食では、原材料だけでなく調理器具、揚げ油、ゆで湯の共用についても確認しましょう。

12.日本の「小麦表示」と「グルテンフリー表示」の注意点

日本では、小麦は食物アレルギー表示の義務対象です。しかし、日本の小麦アレルギー表示と、海外で使われるグルテンフリー表示は基準や目的が異なります。国際的なCodex規格では、「グルテンフリー」と表示する食品のグルテン量は、原則として20mg/kg(20ppm)以下とされています。一方、日本の食品表示は主に食物アレルギー患者のための「小麦」の表示です。セリアック病で問題となる大麦やライ麦は、小麦のアレルギー表示だけでは把握できないことがあります。

「小麦不使用=必ずグルテンフリー」ではありません

小麦を使用していなくても、大麦、ライ麦、麦芽などを含んでいる可能性があります。また、「グルテンフリー」と書かれていても、日本国内の小麦アレルギー表示とは基準が異なるため、原材料や製造管理を確認する必要があります。

13.グルテンフリー食は健康やダイエットに効果がある?

セリアック病ではない人がグルテンを除去しても、健康状態が改善したり、体重が減ったりするという十分な根拠はありません。市販のグルテンフリー加工食品には、通常の商品より食物繊維、鉄、葉酸、ビタミンB群が少ないものや、脂質、砂糖、エネルギー量が多いものがあります。必要性のないグルテン除去には、次のような問題があります。

  • 食物繊維や微量栄養素が不足する
  • 食費が高くなる
  • 外食や会食が難しくなる
  • セリアック病の検査が正確にできなくなる
  • 本当の原因疾患の診断が遅れる

「グルテンを控えたら調子がよくなった」という場合も、セリアック病、小麦アレルギー、過敏性腸症候群などを評価してから食事療法を考えましょう。

14.治療後の経過観察

グルテンフリー食を始めた後も、定期的な経過観察が必要です。主に次の項目を確認します。

  • 腹部症状や全身症状の改善
  • 身長、体重、成長の経過
  • 抗tTG抗体などの推移
  • 血算、鉄、フェリチン
  • 葉酸、ビタミンB12
  • カルシウム、ビタミンD
  • 肝機能
  • 必要に応じた骨密度検査
  • グルテン混入の可能性

抗体が陰性になっても、小腸粘膜が完全に回復しているとは限りません。成人では症状や検査結果、治療経過に応じて再度の内視鏡検査が検討されることがあります。

15.グルテンフリー食でも症状が改善しない場合

セリアック病と診断され、グルテンフリー食を続けても症状が残る場合、最も多い原因は意図しないグルテン摂取です。そのほか、次のような原因を検討します。

  • 調味料や加工食品からのグルテン摂取
  • 調理器具や外食での交差接触
  • 一時的または持続的な乳糖不耐症
  • 過敏性腸症候群
  • 小腸内細菌異常増殖症
  • 顕微鏡的大腸炎
  • 膵外分泌機能不全
  • 炎症性腸疾患
  • 診断そのものが正しいかという再評価

厳格なグルテンフリー食を続けても小腸障害が改善しない状態は、まれに難治性セリアック病と呼ばれます。専門的な検査と治療が必要になるため、消化器専門施設への紹介が必要です。

16.治療しない場合に起こり得る合併症

セリアック病を治療せず、小腸粘膜の炎症が続くと、次のような合併症につながる可能性があります。

  • 鉄欠乏性貧血
  • 低栄養
  • 骨粗しょう症、骨折
  • 成長障害
  • 神経障害
  • 不妊や妊娠への影響
  • ほかの自己免疫疾患
  • 小腸腺がん
  • 腸管症関連T細胞リンパ腫

がんやリンパ腫はまれですが、長期間治療されていない患者や、難治性セリアック病ではリスクが高くなることがあります。

17.医療機関を受診する目安

次のような症状がある場合は、消化器内科やかかりつけ医に相談してください。

  • 下痢や腹部膨満が数週間以上続く
  • 原因不明の体重減少がある
  • 鉄剤を飲んでも貧血を繰り返す
  • 原因不明の骨粗しょう症がある
  • 子どもの体重や身長が増えない
  • セリアック病の家族がいる
  • 1型糖尿病や自己免疫性甲状腺疾患があり、消化器症状もある
  • 小麦を控えると症状が改善するが、原因が分からない

特に、自己判断でグルテンフリー食を始める前に受診することが、正確な診断につながります。

18.セリアック病についてよくある質問

Q1.日本人でもセリアック病になりますか?

はい。欧米より有病率は低いと考えられていますが、日本人の患者も報告されています。慢性的な下痢、体重減少、原因不明の鉄欠乏性貧血などがあれば、日本人でも検査を検討します。

Q2.グルテンフリー食を試してから病院に行ってもよいですか?

おすすめできません。グルテンを除去すると抗体検査や十二指腸生検が陰性になる可能性があります。可能であれば、通常どおりグルテンを食べている状態で受診してください。

Q3.少量ならグルテンを食べても大丈夫ですか?

セリアック病では、症状が出なくても少量のグルテンによって小腸粘膜の炎症が続く可能性があります。治療では、意図的な「少量摂取」も避けることが基本です。

Q4.米は食べられますか?

米そのものにはグルテンが含まれていないため、基本的に食べられます。ただし、味付けや加工食品、製造過程で小麦などが加わっていないか確認してください。

Q5.セリアック病は治りますか?

グルテンを食べても問題が起こらない体質に完全に戻す治療は、現在確立していません。ただし、厳格なグルテンフリー食を続けることで、小腸粘膜が回復し、症状や合併症のリスクを大きく減らせます。

Q6.セリアック病は遺伝しますか?

発症しやすい遺伝的素因は家族内で共有されますが、遺伝子を持つ人全員が発症するわけではありません。一親等家族は一般人口よりリスクが高いため、症状がある場合は検査を相談しましょう。

まとめ:日本人ではまれでも、見逃してはいけない病気

セリアック病は、小麦、大麦、ライ麦などに含まれるグルテンをきっかけに免疫反応が起こり、小腸粘膜が傷つく自己免疫疾患です。日本人での有病率は欧米より低いと考えられていますが、日本国内でも患者は確認されています。下痢や腹痛だけでなく、原因不明の鉄欠乏性貧血、骨粗しょう症、倦怠感、体重減少、子どもの成長障害などが診断のきっかけになることがあります。診断では、グルテンを摂取している状態で抗tTG-IgA抗体と総IgAを測定し、必要に応じて十二指腸生検を行います。診断前に自己判断でグルテンフリー食を始めると、正しい診断が難しくなる点に注意が必要です。セリアック病と診断された場合は、生涯にわたる厳格なグルテンフリー食が治療の基本です。食事制限による栄養不足を防ぐためにも、医師や管理栄養士と相談しながら継続しましょう。


本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。症状や検査結果には個人差があります。診断や治療、グルテン負荷試験、食事制限については、消化器内科、小児科、管理栄養士などにご相談ください。

参考文献

  1. American College of Gastroenterology Guidelines Update: Diagnosis and Management of Celiac Disease(2023)
  2. European Society for the Study of Coeliac Disease 2025 Updated Guidelines:成人の診断
  3. Celiac disease in non-clinical populations of Japan
  4. Serological screening for celiac disease in adults in Japan
  5. Global Prevalence of Celiac Disease: Systematic Review and Meta-analysis
  6. Celiac Disease: Genetics, Pathogenesis, Diagnosis and Treatment
  7. NIDDK:Eating, Diet, & Nutrition for Celiac Disease
  8. 消費者庁:EUやアメリカ等におけるグルテンフリー表示と日本のアレルギー表示
  9. Codex Alimentarius:グルテン不耐症者用食品に関する国際規格
  10. FDA:Celiac Disease—Developing Drugs for Adjunctive Treatment to a Gluten-Free Diet

この記事について

この記事は、公的機関・診療ガイドライン・医学論文などを参考に作成しています。

本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断や治療を代替するものではありません。 気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

執筆者:小林 知貴
所属:いしうちファミリークリニック 院長
資格:医学博士/家庭医療専門医/総合診療専門医/総合内科専門医

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