アトピー性皮膚炎の症状・原因・治療|悪化を防ぐスキンケアを医師が解説

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病気について

アトピー性皮膚炎は、強いかゆみを伴う湿疹が、よくなったり悪くなったりを繰り返す慢性の皮膚疾患です。乳幼児に多い病気ですが、学童期や思春期、成人になってから症状が続いたり、いったん改善した後に再発したりすることもあります。「アトピーは体質だから治らない」「ステロイドを塗ると皮膚が黒くなる」と不安に思う方もいます。しかし、現在は外用薬だけでなく、生物学的製剤やJAK阻害薬など治療の選択肢が増えており、適切な治療とスキンケアによって、症状がほとんどなく日常生活に支障がない状態を目指せるようになっています。

この記事では、アトピー性皮膚炎の症状、原因、診断、治療薬の選び方、薬を追加するタイミング、正しいスキンケア、食物アレルギーとの関係について、最新の診療ガイドラインをもとに解説します。

この記事のポイント

  • アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下と免疫反応、環境因子が複雑に関係する病気です。
  • 診断は血液検査ではなく、かゆみ、皮疹の特徴、慢性・反復性の経過から行います。
  • 治療の基本は、抗炎症外用薬、保湿によるスキンケア、悪化因子への対策です。
  • 薬が効かないときは、まず塗る量や塗り方、感染症、接触皮膚炎などを見直します。
  • アレルギー検査が陽性という理由だけで、食べ物を除去してはいけません。

1.アトピー性皮膚炎とは?

アトピー性皮膚炎は、日本皮膚科学会により「増悪と軽快を繰り返す、かゆみのある湿疹を主な病変とする疾患」と定義されています。皮膚の表面には、体内の水分が逃げるのを防ぎ、細菌、アレルゲン、化学物質などが体内へ入り込むのを防ぐ「皮膚バリア」があります。アトピー性皮膚炎では、このバリア機能が弱くなっているため、皮膚が乾燥しやすく、通常であれば問題にならない刺激にも敏感になります。さらに、皮膚に炎症が起こるとかゆみが生じ、掻くことで皮膚バリアがさらに壊れます。その結果、炎症とかゆみが強くなり、また掻いてしまうという「かゆみ・掻破の悪循環」が生じます。

アトピー性皮膚炎の治療目標

アトピー性皮膚炎は、短期間で完全に治して終わる病気というより、症状を適切にコントロールしていく病気です。治療では、次のような状態を目指します。

  • かゆみや湿疹がない、または軽度である
  • 夜に眠れ、学校や仕事に支障がない
  • 掻き壊しや皮膚感染症を起こさない
  • 強い薬を毎日使わなくても安定した状態を保てる

2.アトピー性皮膚炎の主な症状

代表的な症状はかゆみ、赤み、ぶつぶつ、乾燥、皮むけです。皮膚を繰り返し掻くと、じゅくじゅくしたり、かさぶたができたり、皮膚が厚く硬くなる「苔癬化」が起きたりします。

主な症状 特徴
かゆみ 代表的な症状です。夜間、入浴後、発汗時、寝具に入ったときなどに強くなることがあります。
紅斑 皮膚が赤くなります。炎症が強いほど赤みや腫れが目立ちます。
丘疹 赤いぶつぶつや盛り上がった湿疹がみられます。
乾燥・鱗屑 皮膚がカサカサし、細かくむけたり粉をふいたりします。
湿潤・かさぶた 炎症や掻き壊しが強いと、液がにじみ、かさぶたができます。
苔癬化 慢性的に掻くことで、皮膚が厚く硬くなり、皮膚のしわが目立ちます。
色素沈着 炎症が続いた後に皮膚が茶色くなることがあります。多くは炎症後色素沈着です。

年齢によって症状が出やすい場所が異なる

年齢 症状が出やすい場所・特徴
乳児期 頭、額、頬、口や耳の周囲から始まり、体幹や手足へ広がることがあります。
幼児・学童期 首、肘の内側、膝の裏、手首、足首などに出やすくなります。
思春期・成人期 顔、首、胸、背中など上半身に強く出る傾向があります。手湿疹を伴うこともあります。

3.アトピー性皮膚炎の原因

アトピー性皮膚炎には、単独の原因があるわけではありません。主に皮膚バリア機能の低下、免疫反応の偏り、遺伝的素因、環境因子が複雑に関係して発症・悪化します。

3-1.皮膚バリア機能の低下

皮膚の最も外側にある角層は、水分の蒸発や異物の侵入を防いでいます。アトピー性皮膚炎では、角層の水分保持に関係するフィラグリンなどの働きが低下し、皮膚が乾燥しやすくなります。バリア機能が低下すると、汗、衣類の摩擦、洗剤、花粉、ダニ、細菌などが刺激となりやすくなります。

3-2.免疫反応の偏り

アトピー性皮膚炎では、IL-4、IL-13、IL-31などのサイトカインが皮膚の炎症やかゆみに関係します。近年は、これらの特定のサイトカインや、その情報伝達経路を抑える治療薬が使用できるようになりました。

3-3.遺伝的な要因とアトピー素因

本人や家族に次のような疾患がある場合、アトピー性皮膚炎を発症しやすい傾向があります。

  • アトピー性皮膚炎
  • 気管支喘息
  • アレルギー性鼻炎・結膜炎
  • 食物アレルギー

ただし、家族にアレルギー疾患がなくても発症することがあります。また、アトピー素因があることは診断の参考になりますが、診断の必須条件ではありません。

3-4.症状を悪化させる要因

  • 乾燥、気温や湿度の変化
  • 汗を長時間放置すること
  • ウールなど刺激の強い衣類
  • 洗剤、柔軟剤、化粧品、整髪料
  • 花粉、ダニ、ハウスダスト、ペット由来のアレルゲン
  • 皮膚への摩擦や掻き壊し
  • 睡眠不足、疲労、精神的ストレス
  • 細菌やウイルスによる皮膚感染症

すべての患者さんに同じ悪化因子があるわけではありません。必要以上に生活を制限するのではなく、自分の症状と関係する要因を見つけることが大切です。


4.アトピー性皮膚炎の診断

アトピー性皮膚炎は、基本的に問診と皮膚の診察によって診断します。血液検査だけで診断する病気ではありません。

日本皮膚科学会の診断基準

次の3項目を満たす場合、症状の重さにかかわらずアトピー性皮膚炎と診断します。

  1. かゆみがある
  2. 特徴的な湿疹と分布がある
  3. 慢性・反復性の経過がある

慢性の目安は、乳児では2か月以上、その他の年齢では6か月以上です。ただし、発症直後で期間を満たしていない場合は、年齢や経過をみながら診断します。

アトピー素因は診断の必須条件ではない

本人や家族の喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の既往、総IgE値の上昇などは診断の参考になります。しかし、これらがなくてもアトピー性皮膚炎と診断されることがあります。

鑑別が必要な皮膚疾患

湿疹やかゆみがあるからといって、すべてがアトピー性皮膚炎とは限りません。次のような病気との区別が必要です。

  • 接触皮膚炎
  • 脂漏性皮膚炎
  • 皮脂欠乏性湿疹
  • 手湿疹
  • 疥癬
  • 汗疹
  • 乾癬
  • 皮膚真菌症
  • 皮膚リンパ腫
  • 免疫不全症や一部の遺伝性皮膚疾患

突然成人になってから全身に湿疹が出た場合、左右差が著しい場合、治療を続けてもまったく改善しない場合などは、診断の見直しが必要です。

血液検査でわかること

検査 主な目的
総IgE アレルギーになりやすい傾向をみますが、正常でもアトピー性皮膚炎は否定できません。
特異的IgE ダニ、花粉、食物などへの感作を調べます。陽性だけでは原因アレルゲンと断定できません。
好酸球 アレルギー性炎症の参考になります。
TARC・SCCA2 皮膚炎の病勢を客観的に評価する目的で用いることがあります。
パッチテスト 化粧品、金属、外用薬などによる接触皮膚炎が疑われる場合に検討します。

特異的IgEが陽性であることは、その物質に反応する抗体があるという意味であり、実際に症状を起こすことと同じではありません。検査結果は、症状が出た状況や診察所見と合わせて判断します。


5.アトピー性皮膚炎の重症度

治療薬を選ぶためには、皮疹の強さだけでなく、広がり、かゆみ、睡眠への影響、学校や仕事への支障などを評価します。

重症度 目安
軽症 面積にかかわらず、軽い赤みや乾燥を中心とする湿疹です。
中等症 強い炎症を伴う湿疹が体表面積の10%未満にみられます。
重症 強い炎症を伴う湿疹が体表面積の10%以上30%未満にみられます。
最重症 強い炎症を伴う湿疹が体表面積の30%以上に及びます。

面積が狭くても、顔、まぶた、手、陰部など日常生活への影響が大きい部位に強い湿疹がある場合や、かゆみで眠れない場合は、治療を強化する必要があります。


6.アトピー性皮膚炎の治療

治療は、次の3本柱で行います。

  1. 薬物療法で皮膚の炎症とかゆみを抑える
  2. スキンケアで皮膚バリア機能を補う
  3. 症状を悪化させる原因を探して対策する

保湿だけでは、すでに起きている強い炎症を十分に抑えられません。一方、抗炎症外用薬で湿疹が改善しても、保湿をやめると乾燥によって再燃しやすくなります。両方を組み合わせることが大切です。


7.アトピー性皮膚炎に使用する外用薬

7-1.ステロイド外用薬

ステロイド外用薬は、皮膚の炎症を速やかに抑える基本的な治療薬です。日本では作用の強さによって、次の5段階に分類されます。

  1. ストロンゲスト
  2. ベリーストロング
  3. ストロング
  4. ミディアム
  5. ウィーク

皮疹の強さ、年齢、塗る場所に応じて使い分けます。顔やまぶた、首、皮膚の薄い部分では、体幹や手足と同じ強さの薬を漫然と使用せず、医師の指示に従って強さや期間を調整します。

ステロイドは皮膚を黒くする?

アトピー性皮膚炎でみられる茶色い色素沈着の多くは、皮膚炎が続いた後に生じる炎症後色素沈着です。ステロイド外用薬そのものが皮膚を黒くしているわけではありません。一方、同じ場所へ必要以上に強いステロイドを長期間連用すると、皮膚が薄くなる、毛細血管が目立つ、にきびのような発疹が出るなどの局所的な副作用が起こることがあります。適切な強さ、量、期間で使用し、定期的に皮膚の状態を確認することが重要です。

7-2.タクロリムス軟膏

タクロリムス軟膏は、カルシニューリン阻害薬に分類される非ステロイド性の抗炎症外用薬です。特に顔や首など、ステロイド外用薬の長期連用を避けたい部位で使用されます。塗り始めに、ヒリヒリ感、熱感、かゆみを感じることがありますが、炎症が改善すると軽くなることが多いとされています。じゅくじゅくした部分、びらん、粘膜には使用できません。

7-3.デルゴシチニブ軟膏

デルゴシチニブは、皮膚の炎症に関係するJAKの働きを抑える外用薬です。ステロイドやタクロリムスとは異なる作用機序を持ちます。使用できる年齢、1回の使用量、塗布できる範囲に決まりがあります。感染している皮膚には使用できないことがあるため、処方時の説明を守りましょう。

7-4.ジファミラスト軟膏

ジファミラストは、PDE4という酵素を阻害することで炎症を抑える非ステロイド性外用薬です。乳幼児から成人まで使用できる製剤がありますが、年齢や症状によって使用する濃度が異なります。

7-5.タピナロフクリーム

タピナロフは、芳香族炭化水素受容体を調節する新しい作用機序の非ステロイド性外用薬です。皮膚の炎症を抑えるとともに、皮膚バリア機能への作用も期待されています。毛包炎、にきびのような発疹、接触皮膚炎などがみられることがあるため、使用中に新しい発疹が出た場合は医師へ相談してください。

7-6.保湿剤

保湿剤は、皮膚から水分が逃げるのを防ぎ、皮膚バリアを補うために使用します。

  • 白色ワセリン
  • ヘパリン類似物質
  • 尿素製剤
  • セラミドなどを含む市販の保湿剤

尿素製剤は、赤みや掻き壊しがある部分では刺激を感じることがあります。皮膚の状態や使用感に合わせて選びましょう。


8.外用薬はどのくらい塗ればよい?

薬を塗っているのに改善しない原因として、非常に多いのが塗る量の不足です。

フィンガーチップユニット(FTU)

成人用のチューブから、人差し指の先端から第1関節まで薬を出した量を「1FTU」と呼びます。およそ0.5gで、成人の手のひら約2枚分の面積に塗る量の目安です。外用薬は、皮膚に塗った後に少し光って見え、ティッシュペーパーが軽く付く程度が一つの目安です。薄く擦り込んで見えなくする必要はありません。

塗るときのポイント

  • 患部を強くこすらず、やさしく広げる
  • 赤い部分だけでなく、ざらつきや硬さが残る範囲にも塗る
  • 顔用と体用の薬を区別する
  • 塗った回数と薬の残量を確認する
  • 自己判断で急に中止せず、減らし方を医師と相談する

保湿剤と抗炎症外用薬の順番は、処方内容や剤形によって異なります。一般的には、湿疹部分に抗炎症薬を塗り、乾燥する範囲全体に保湿剤を使用します。具体的な順番は処方した医師や薬剤師に確認しましょう。


9.薬が効かないときの追加・変更方法

薬を塗っても改善しないときに、すぐに強い薬や注射薬を追加するとは限りません。まず、治療が効かない原因を順番に見直します。

ステップ1:診断と悪化原因を見直す

  • 本当にアトピー性皮膚炎か
  • 接触皮膚炎や疥癬、真菌症を合併していないか
  • とびひやヘルペスなどの感染症がないか
  • 外用薬や化粧品そのものによるかぶれがないか
  • 薬を処方どおりに使用できているか

ステップ2:外用薬の強さ・量・塗布範囲を適正化する

皮疹に対して薬が弱すぎる、塗る量が少ない、塗布日数が短いと、炎症を十分に抑えられません。症状が強い時期には、適切な強さの薬を十分量使用して、まず炎症を鎮めます。

ステップ3:部位に応じて非ステロイド外用薬を組み合わせる

顔や首、皮膚の薄い部位、繰り返し再発する部位では、タクロリムス、デルゴシチニブ、ジファミラスト、タピナロフなどを症状や年齢に応じて選択します。

ステップ4:プロアクティブ療法を行う

炎症が落ち着いた後も同じ場所で繰り返す場合は、保湿剤を毎日使用しながら、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏を週2回程度など間隔を空けて塗るプロアクティブ療法を検討します。見た目が正常になっても皮膚の内部に炎症が残っていることがあるため、再燃を繰り返す場所を予防的に治療する方法です。塗る頻度や期間は医師と相談して決めます。

ステップ5:中等症以上では全身治療を検討する

十分な外用療法とスキンケアを行っても改善しない場合や、広範囲の湿疹、強いかゆみ、睡眠障害が続く場合は、皮膚科やアレルギー専門医で全身治療を検討します。

治療 主な特徴
生物学的製剤 炎症やかゆみに関係する特定のサイトカインを抑える注射薬です。
経口JAK阻害薬 炎症に関係する細胞内の情報伝達を抑える内服薬です。
シクロスポリン 重症例で短期間・間欠的に使用する免疫抑制薬です。
紫外線療法 医療用の紫外線を照射して皮膚の炎症を抑えます。

主な生物学的製剤

  • デュピルマブ
  • ネモリズマブ
  • トラロキヌマブ
  • レブリキズマブ

それぞれ対象年齢、適応となる症状、投与間隔が異なります。結膜炎、注射部位反応など、薬剤ごとに注意すべき副作用もあります。

主な経口JAK阻害薬

  • バリシチニブ
  • ウパダシチニブ
  • アブロシチニブ

経口JAK阻害薬は高い効果が期待できる一方、帯状疱疹を含む感染症、血栓症、血液検査値の異常などに注意が必要です。治療前に結核や肝炎などの検査を行い、治療中も定期的な血液検査が必要です。内服ステロイドは急激な悪化時に短期間使用することがありますが、長期間継続すると全身性の副作用や中止後の再燃が問題になるため、慢性的な維持治療としては通常使用しません。


10.正しいスキンケアの方法

10-1.毎日、皮膚をやさしく洗う

汗、皮脂、汚れ、黄色ブドウ球菌などが皮膚に残ると、皮膚炎を悪化させることがあります。入浴やシャワーで清潔に保ちましょう。

  • 熱すぎるお湯を避ける
  • ナイロンタオルや硬いスポンジでこすらない
  • 洗浄剤をよく泡立て、手でやさしく洗う
  • 首、脇、肘、膝、耳の後ろなどのしわもやさしく洗う
  • 石けんやシャンプーを十分にすすぐ
  • タオルでこすらず、押さえるように水分を取る

洗浄剤は無香料・低刺激性のものが使いやすいですが、「無添加」「オーガニック」であれば必ず安全というわけではありません。使用後に赤みやかゆみが増える場合は中止してください。

10-2.入浴後は早めに保湿する

入浴後は皮膚から水分が逃げやすいため、できれば入浴後5分以内を目安に保湿剤を塗ります。時間が経って乾いてしまった場合でも、保湿剤を塗ること自体に意味があるため、塗り忘れに気づいた時点で使用しましょう。

  • 湿疹がある場所だけでなく、乾燥する範囲全体に塗る
  • 指先だけでなく手のひらを使って広げる
  • 皮膚のしわに沿ってやさしく塗る
  • 乾燥が強い時期は1日2回以上を検討する
  • 季節に関係なく継続する

10-3.保湿剤の剤形を使い分ける

剤形 特徴
軟膏・ワセリン 刺激が少なく保湿力が高い一方、べたつきやすい剤形です。
クリーム 伸ばしやすく、日中にも使用しやすい剤形です。亀裂やびらんではしみることがあります。
ローション 広い範囲や毛のある部位に塗りやすい剤形です。
フォーム・スプレー 背中など手が届きにくい場所に使用しやすい製品があります。

毎日継続できることが重要です。使用感、季節、塗る場所に合わせて選びましょう。


11.日常生活でできる対策

汗をかいたら放置しない

汗そのものを完全に避ける必要はありません。運動や外出で汗をかいたら、シャワーで洗い流すか、濡らした柔らかいタオルで押さえるように拭きます。汗で濡れた衣類は早めに着替えましょう。

刺激の少ない衣類を選ぶ

綿など、柔らかく通気性のよい素材を選びます。ウール、硬い縫い目、タグ、締め付けの強い衣類が刺激になる場合があります。

爪を短くする

爪を短く滑らかに整えると、無意識に掻いたときの皮膚損傷を減らせます。夜間に掻き壊す子どもでは、袖のある寝衣や手袋が役立つ場合があります。ただし、蒸れには注意しましょう。

室温と湿度を調整する

暑すぎる室内では汗とかゆみが増えます。一方、空気が乾燥すると皮膚の水分が失われます。冷暖房を適切に使用し、過度に暑い、寒い、乾燥した環境を避けましょう。加湿器を使用する場合は、過度な加湿によるカビやダニの増加を避け、機器を定期的に清掃してください。

ダニ・ハウスダスト対策

すべての患者さんに厳格な環境整備が必要なわけではありません。ダニやハウスダストで症状が悪化する場合は、寝具の洗濯、室内の清掃、換気などを行います。

ストレスと睡眠を見直す

ストレスや睡眠不足はかゆみを強くし、かゆみによる睡眠不足がさらにストレスを増やす悪循環を起こします。薬を塗っても夜間のかゆみで眠れない場合は、治療が十分ではない可能性があるため医師へ相談してください。

民間療法に注意する

食品、精油、植物エキス、消毒薬などを湿疹部分へ塗ることは、刺激性皮膚炎、接触皮膚炎、経皮感作の原因になることがあります。特に皮膚バリアが壊れた乳児の皮膚へ、食べ物を直接塗ることは避けましょう。


12.アトピー性皮膚炎と食物アレルギーの関係

アトピー性皮膚炎と食物アレルギーには関連がありますが、アトピー性皮膚炎のすべてが食べ物によって起きているわけではありません。

乳児期の湿疹は食物アレルギーのリスクになる

乳児期に皮膚バリアが壊れた状態が続くと、皮膚を通して食物抗原に感作され、食物アレルギーを発症する可能性が高くなると考えられています。そのため、乳児湿疹やアトピー性皮膚炎を早期から適切に治療し、皮膚をよい状態に保つことが重要です。

食物アレルギーを疑う症状

特定の食べ物を摂取した後、毎回次のような症状が出る場合は、食物アレルギーを疑います。

  • じんましん、皮膚の赤み、まぶたや唇の腫れ
  • 咳、喘鳴、呼吸困難
  • 繰り返す嘔吐、強い腹痛
  • ぐったりする、意識がもうろうとする
  • 複数の臓器に急速に症状が出る

呼吸困難、繰り返す嘔吐、ぐったりするなどの症状がある場合は、アナフィラキシーの可能性があるため、速やかな救急対応が必要です。

アレルギー検査が陽性でも、除去が必要とは限らない

血液検査で卵、牛乳、小麦、大豆などの特異的IgEが陽性でも、実際に食べて症状がなければ、通常は検査結果だけを理由に除去する必要はありません。特異的IgE陽性は「感作されている」ことを示しますが、「食物アレルギーを発症している」こととは必ずしも一致しません。

自己判断による除去食は避ける

食物アレルギーの関与が明らかでない小児・成人のアトピー性皮膚炎に対して、広範囲の除去食を行っても皮膚炎の改善は期待できません。特に乳幼児で卵、牛乳、小麦などを長期間除去すると、エネルギー、たんぱく質、カルシウムなどが不足し、成長や発達に影響する可能性があります。除去が必要かどうかは、食べた後の症状、特異的IgE、皮膚の状態、必要に応じた食物経口負荷試験などから総合的に判断します。

食物経口負荷試験とは?

疑わしい食品を医療機関で少量から摂取し、症状が出るかを確認する検査です。食物アレルギーの確定診断や、どの程度まで食べられるか、除去を解除できるかを判断するために行います。過去に強い症状やアナフィラキシーを起こした食品を、自宅で少しずつ試すことは危険です。必ず医師へ相談してください。

離乳食は遅らせたほうがよい?

アトピー性皮膚炎があるという理由だけで、卵などの離乳食開始を一律に遅らせることは推奨されません。まず湿疹を適切に治療し、皮膚の状態を整えることが重要です。重症の湿疹がある、すでに特定の食品で症状が出た、強い感作が疑われるなどの場合は、開始時期や量について小児科・アレルギー専門医へ相談しましょう。


13.アトピー性皮膚炎の合併症

皮膚感染症

合併症 特徴
伝染性膿痂疹(とびひ) 水疱、膿、黄色いかさぶたが広がります。
カポジ水痘様発疹症 ヘルペスウイルスによって、小さな水疱やくぼんだ発疹が急速に広がり、発熱を伴うことがあります。
蜂窩織炎 皮膚が赤く腫れ、熱感や痛み、発熱を伴います。
伝染性軟属腫 いわゆる水いぼが多数できることがあります。

アトピー性皮膚炎の皮膚には黄色ブドウ球菌が増えやすい傾向がありますが、感染症がない状態で抗菌薬や消毒薬を routinely 使用することは推奨されません。

眼の合併症

顔やまぶたの皮膚炎が強い患者さんでは、アレルギー性結膜炎、白内障、網膜剥離などを合併することがあります。目を繰り返しこすったり叩いたりすることもリスクになります。目の痛み、見えにくさ、かすみ、光がまぶしいなどの症状がある場合は、眼科を受診してください。

睡眠障害や心理的負担

慢性的なかゆみは、睡眠不足、集中力低下、学業・仕事への支障、不安、抑うつなどにつながることがあります。精神的な負担も病気の一部として医師に相談して構いません。


14.早めに医療機関を受診したほうがよい症状

  • かゆみで夜に眠れない
  • 湿疹が急速に全身へ広がっている
  • じゅくじゅくした液、膿、黄色いかさぶたが増えた
  • 皮膚の痛みや発熱を伴う
  • 顔や首に小さな水疱・くぼんだ発疹が多数出た
  • まぶたの腫れ、目の痛み、見えにくさがある
  • 処方された薬を正しく使っても改善しない
  • 薬の副作用が心配で使用を続けられない
  • 食後にじんましん、咳、嘔吐などが出る
  • 広範囲の食物除去を続けている

乳幼児では、湿疹が軽そうに見えても、掻き壊し、睡眠障害、体重増加不良などがある場合は早めに小児科や皮膚科へ相談しましょう。


15.アトピー性皮膚炎についてよくある質問

Q1.アトピー性皮膚炎はうつりますか?

アトピー性皮膚炎そのものは感染症ではないため、人にうつりません。ただし、とびひやヘルペスなどの感染症を合併している場合は、感染が広がることがあります。

Q2.ステロイドを一度使うとやめられなくなりますか?

ステロイド外用薬に依存性があるわけではありません。使用をやめると症状が再燃する場合は、炎症が十分に治まっていない、薬を急に中止した、悪化因子が残っているなどの可能性があります。症状が改善した後は、塗る回数を減らしたり、非ステロイド外用薬やプロアクティブ療法へ移行したりします。

Q3.保湿剤だけで治療できますか?

乾燥だけで炎症がほとんどない場合は、保湿剤が中心になることがあります。しかし、赤み、ぶつぶつ、強いかゆみ、じゅくじゅくなどの炎症がある場合は、保湿剤だけでは不十分で、抗炎症外用薬が必要です。

Q4.毎日お風呂に入ってもよいですか?

基本的には毎日入浴またはシャワーを行い、汗や汚れを落として構いません。ただし、熱い湯、長時間の入浴、強くこする洗い方、洗浄剤の使いすぎは乾燥を悪化させる可能性があります。入浴後は早めに保湿してください。

Q5.アトピー性皮膚炎は大人になれば治りますか?

成長とともに症状が軽くなる方は多い一方、成人まで続く場合や、いったん改善した後に再発する場合もあります。適切な治療を続けることで、症状のない状態や軽い状態を長く維持することが目標です。


16.まとめ

アトピー性皮膚炎は、皮膚バリア機能の低下と免疫反応、遺伝的素因、環境因子などが複雑に関係する慢性の皮膚疾患です。治療の基本は、抗炎症外用薬、毎日のスキンケア、悪化因子への対策です。薬を塗っても改善しない場合は、単に薬を強くするのではなく、塗る量や塗り方、診断、感染症、接触皮膚炎などを見直す必要があります。外用療法を適切に行っても症状が安定しない中等症から重症の患者さんには、生物学的製剤や経口JAK阻害薬などの治療選択肢があります。かゆみや湿疹によって睡眠や学校、仕事に支障がある場合は、我慢せず医療機関へ相談してください。また、アトピー性皮膚炎があるという理由だけで、自己判断による食物除去を行うことは避けましょう。食物アレルギーが疑われる場合は、病歴、検査、必要に応じた食物経口負荷試験により正確に診断することが大切です。


参考文献

  1. 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」
  2. アレルギーポータル「アトピー性皮膚炎とは」
  3. 日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎 Q&A」

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としています。実際に使用できる薬剤、対象年齢、用法・用量は、症状や既往歴によって異なります。自己判断で処方薬を開始・中止せず、主治医へご相談ください。

この記事について

この記事は、公的機関・診療ガイドライン・医学論文などを参考に作成しています。

本記事は一般的な医療情報であり、個別の診断や治療を代替するものではありません。 気になる症状がある場合は、医療機関にご相談ください。

執筆者:小林 知貴
所属:いしうちファミリークリニック 院長
資格:医学博士/家庭医療専門医/総合診療専門医/総合内科専門医

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